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シリーズ・短篇
13
畑仕事が一段落したところで、スラムから戻ったイライアスと話す機会が出来た。
これから狩りに出るから日が暮れるまで戻らない。

「お帰りなさい」
「ただいま、お嬢サン」

お嬢サンお嬢サンと声が重なる中で、イライアスは無言で頷くだけだ。
そしてツタにどうだった?と様子を聞く。

「正直に言うと、やはりフランシスさん一人で森を歩くのは危なっかしく思えます。チビ達が活躍してくれました」

それを聞いた皆は、やっぱりなーとケラケラ笑った。
イライアスも期待してなかったと見えて、難しかったか……と可笑しそうに笑みを浮かべた。

「チビどもを褒めてやらねばな」
「ですが。フランシスさんが木に登ってオレンジをとってくれました。オレ達には到底届かない、上の方まで登って。ぴょんと軽くジャンプしただけに見えたのに、枝に簡単に乗ってしまったんです。びっくりしました」
「へー!すごいね、お嬢サン!」

皆に褒められても得意になってはいけない。
イライアスが認めなければ意味がない。
緊張してそろっと見上げると、視線を追って周囲の目もそこに集まる。

「猫は木登りが得意だ。高いところから落ちても平気で着地するし、な?」
「役に立って喜んでるんすから、怒らないでやってくださいよ」

皆がフランシスを庇うことで自分だけ敵の様に扱われたと思ったのか、イライアスはムッとして口を開いた。

「別に俺はそこまで禁じているわけではない」

王の様な威厳を持つイライアスだが、こういう時は慕われているのだとよくわかる。
ニヤッと笑って目配せする彼らは、おそらくイライアスが嫉妬して行動を制限していることを知っているのだ。
イライアスの言葉からもそう察せられた。

「フランシス、よくやった」

イライアスに褒められて安心できたのと頬に触れられたので、たまらず感情を溢れさせた。
嬉しさが顔に出ると、ツタは瞠目してさっと照れくさそうに顔をそらした。
他の面々はにこにこと微笑ましく見守っている。

「俺達はこれから狩りに出る」
「はい。どうか、気をつけて」

ケガが無いようにと心を込めて、頬に添えられる手にそっと両手を重ねて祈る。
愛しいぬくもり。

「皆さんも」
「あいよっ」
「ついででも嬉しいよ」

そうからかって笑うが、あたたかな眼差しがそこにある。
以前よりずっと貧しくて、無力さを痛感しているけれど、これまで生きてきた中で最も幸せだと言える。
心が窮屈で貧しくては、富があっても意味が無い。

「いってらっしゃい」

今が、とても幸せだ。

その夜、火を囲んでの食事の後だった。

「ヤツら、まだ嗅ぎまわってるんすか」
「ウチにかくまわれたと知っての上でか。ナメてやがる」
「ウチから連れ去ろうなんて不可能だ。なぁ、イライアス!」

一度山猫の存在を知った犬達が、まだしつこく探しまわっているらしい。
群れの一員だと牽制してもなお狙ってる様子を隠さないあたり、ケンカを売っているととった男達が息巻く。

「俺達は卑怯な犬どもに屈しない」

静かだが力のこもった王の宣言に、皆が賛同して叫ぶ。

「そうだ!お嬢サンは皆で守る!」
「犬どもに俺達が負けるか!」
「アイツらがあたしら女以下だってことをよぅく知らしめてやるよ!」

王のものに手を出すことが、そして群れに手を出すということがどういった結果をうむか。
思い知らせてやると雄叫びをあげる。

「恐れることはない。お前をみすみす奪われることはしない」

不安で無意識にもじもじと動かしていた指先を、大きな手がぎゅっと握る。

「はい。信じています」

イライアスを。
そして、群れの皆を。

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あきゅろす。
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