シリーズ・短篇 6 一晩の宿を与えるだけでなく群れに加わったのだと紹介された際の反応は、フランシスにとって意外なものばかりだった。 見知らぬ部外者が突然仲間になると告げられるのだから。それも狼でなく、スラムに多い猫でもない、山猫が。 少なからず抵抗を感じるはずで、反発が言動に現れると身構えていたのに。 へぇー、と。 わずかに瞠目しただけで、難無く受け入れてしまう。 拍子抜けするほどあっさりと。 または。 好奇心に目を輝かせ、初めて見たという山猫を面白がってじろじろ観察したり。 どういうところから来たのかなど質問攻めにしてみたり。 女性陣はというと新たに幼い弟か玩具の人形でも手に入れたかの様で、可愛い可愛いとフランシスを愛でた。 というのも。狼の女性はフランシスより長身で、たくましい体つきの人達だったのだ。 女性といえど、筋肉のつき方が全然違う。 これが種による体格の違いかと思い知った。 「あなたはとても皆さんに信頼されている。素晴らしいリーダーなんですね」 イライアスはぎゅっと眉間にシワを寄せ、いぶかしげにフランシスを見下ろした。 嫌みでもお世辞でもなく、それがフランシスの素直な心からの言葉だと見てとると、不思議そうに表情がやわらぐ。 「僕なんかが突然来ても受け入れてくれるのは、あなたが皆さんの信頼と尊敬を集めているからでしょう。あなたから受けた恩に報いるよう、あなたの名を汚さぬようにしなければと身が引き締まりました。それに、皆さんにも見損なわれないようにしなければ」 「そういう心根が、みんなに気に入られたんだろう。“綺麗な山猫”に胡座をかいているようなだけの者であったなら、そもそもここに連れてこなかった」 イライアスの眼鏡にかなったということも嬉しいが、率直に人格を認められたことに感動をおぼえた。 長く否定され続けてきたから尚更。 ここで落胆されるようなことになれば、自分は本当に駄目なんだと自信を失うだろう。 「僕、頑張ります」 「それならまず、採寸だ。女達はどうしてもお前を玩具にして可愛がりたいらしい」 鋭い目付きで一瞥するのだけ見れば冷ややかな印象を受けるし、抑揚の無い低音の声もフランシスをかたく拒絶しているようにもとれる。 だが、揶揄のかたちをとった戯れで、それが彼なりの気遣いだと解釈したのは、イライアスの本質が優しい人だともう既にフランシスの中にかたまってしまったからだった。 玩具になってこいと放り込まれた小屋には、繕い物をする女性数人が居た。 「あら!来たのね」 「ホント。こりゃあ山猫の紳士じゃないわ」 くすくす笑い合う声に心臓をえぐられたかと思った。が、それも一瞬で誤解だとわかった。 「なるほど。“お嬢サン”ねぇ。騒ぐわけだわ」 「これまた上品な美人猫だ。紳士って感じじゃない。残念だったな」 「それなら、ロマンスは諦めておとなしく美人さんにお似合いのドレスを作らなくっちゃな!」 わははと豪快に笑うと、どれ?と何本もの手が断りも躊躇いもなく体を調べはじめた。 「わっ。わ、ぁ…!」 「わー、あたしらより細っこい体してんな」 「ほーんとだ。子供らだってもうちょい筋肉ついてるだろうな」 大きな声で喋って笑いながら手は動いていて、遠慮ない扱いに翻弄されながらロープで肩幅などの長さをはかられる。 「しっかし、山猫ってのはもっとツンとしてイヤ〜な感じのヤツかと思ってたよ」 「そうだな。そこらの猫と変わんないよな」 喉を塞がれたように、うっと息苦しくなる。 正面に立っていた一人、もしくは二人が、その様子の変化を察知したのか、ぴたりと言葉が止まる。 気まずくてうつむくと、他の面々も空気の変化に気付いて会話が止んだ。 イライアスの顔をうかがったことに意味は無い。 「山猫は、本当はもっと背が高いんです。皆さんに比べたら大したことないかもしれないですけど、ここら辺の猫達よりはもう少し筋肉もあって、体格がいいんです。そりゃあライオンやヒョウの大型猫科に比べたら山猫は小さいですけど」 無理に繕う愛想がひきつりそうだ。 「あ、でも。ツンとしてイヤ〜な感じってのは、そうかもしれません。それと…………本当は、頭が……」 空気を変えようと冗談めかして言ったのに、言葉に詰まって失敗した。 そして、一同は“それ”を察したようだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |