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シリーズ・短篇

実際危ない目にあったので、安全が確保された集落があるという貴重さには感謝する。
イライアスが尊敬される訳がフランシスにもわかった。

「助けてくれて、ありがとうございます」

そういえばちゃんと言ってなかった。

「それと、泊めてくれて……ぷっ!」

話している途中で投げられた毛皮が頭からかぶさる。

「使え。その細い体では寒さがこたえるだろう」

もこもこの毛皮から顔を出し、重ねてお礼を述べる。
何の毛皮だろう?と触っていると、察して教えてくれた。

「そいつは熊だ」
「熊!?」

イライアスは顔色を変えず、鹿のもあるぞとさらりと言う。

「熊……狩ったんですか……?」
「さすがに熊は一人じゃ無理だがな。肉が食いたければ狩るしかない」
「すごい……」

本当に、ここでは毎日生きるために戦っているのだ。

「僕、これから一人で生きていけるでしょうか?」

そんなの無理だとわかっている。
大丈夫だと慰められたかったわけじゃないが、不安で思わず口に出た。

「無理だ」

迷わず断言され、わかっていたががっくりと項垂れる。

「お前一人では、確実にな。だから俺達は助け合うんだ」

ここで暮らすなら生きていけるという意味だと悟り、相手任せにせず、はっきりと自ら言葉にした。

「あの、僕……ここに、置いてもらえますか?もちろんただでなんて考えてません。僕にできることがあれば……いえ。ちゃんと、できることを見つけて、働きますから…!」
「人には向き不向きがある。俺達と同等の働きをしようと気負うな。山猫のお前だからこそできることが沢山あるだろう。だが、まずはここでの暮らしを覚えて慣れることだ」

出来損ないでも山猫と認めてくれた。
そして、気負わず、焦るなと。

「ありがとう…っ。ありがとうございます」


堅い寝台では眠るのに苦労すると思ったが、大きな毛皮にくるまったら体も痛くないし、あたたかくして眠ることができた。
とはいえ慣れない場所で気が張っているのか、小さな物音がしてもすぐに目が覚めてしまう。

「悪い。起こしたか」

微睡みながらゆるゆると首を振る。

「お嬢サンでも、やはり丸まって寝るのだな」

笑みを含んだ声がして、あぁ、もったいない。と思う。
彼の笑った顔を見られるところだったのに。
眠くてまぶたを開けていられないのが残念だった。


鳥の鳴き声が近い。
屋根を歩くその足音もバタバタ鳴って、なんだろう?と不思議に思ってから、何処で寝てるのか思い出すまでに時間が要った。
賑やかな人の声や物音はすべて家の外からで、ずいぶん寝てしまったのだろうかとまだ眠い頭でぼんやりと考える。

もぞもぞと毛皮から出だしたところで、扉が開いて光が差し込んだ。

「起きたか。そろそろ起こそうと思ってたところだ」
「すみません。寝過ぎましたか?」

両手で目を擦るとふっと笑ったので、見れた!と目を丸くする。

「構わない。まだそう遅い時間でもない。それに猫はよく寝るものなのだろう」
「はい。睡眠時間の確保は大切です」

本来早起きなのだが、昨夜は遅かったために寝坊してしまった。

「着替えだが、間に合わせに俺ので我慢してくれ。お前のをつくってくれるよう頼んできたから、挨拶ついでに寸法をはかってもらえ」
「はい」

ここでは服も買うのではなくつくるものなのだ。
イライアスの上着を着ると大き過ぎてワンピースになってしまったが、着心地がよく動きやすい。

「挨拶まわりをしながら、中を案内しよう」

森の水場は集落の住人にだけ教えられる。
貴重な水源を守るためでもあるが、水浴びをしている無防備なところを狙われないためでもある。

イライアスの家と同じ、木とトタンでできた家が点々と距離を置いて建つ。
森を切り開いたところだからきれいに道が舗装されているわけもないし、整地されていないので地形の高低差もそのままだ。
イライアスの家は集落の中でも森に近い最奥にあり、隣接するのは食料を保存する倉庫といった重要な建物だった。
そんなところからもこの群れでの彼の立場というものがわかる。

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