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シリーズ・短篇

リーダーの意思決定には逆らえないから、フランシスを連れていくという彼の意向にまわりも黙って従うしかないのじゃないか。
反感を買うのではと心配になり顔色をうかがう。
だがそんな必要もないくらい、彼らはあっさりとフランシスを受け入れた様子だ。
表情を動かさない寡黙なリーダーを囲み、リラックスした様子で談笑している。
彼らのグループの信頼や結束が強い分、一度内側に受け入れると決めたら余所者でも仲間と認めて心を許してくれているのだろうか。
それとも世間知らずの“お嬢サン”は警戒する必要もないと思われているのか。
またはそんなヤツを放っておくのは危なっかしいと、ひとまず客人として迎えてくれるのか。

「あの、僕……」

とりあえず一晩の宿は与えてくれるようだが、どうなるのかと聞けずに言葉がしぼむ。

「イライアスに感謝しろよ」

親指でくいっと彼を指して促す言葉に、そうだそうだと声が重なる。

「アンタを放り出しておいたらすぐに取って食われるのは目に見えてるからな」
「そうだ。うちのボスに見つけてもらってラッキーだったな」
「ホント、あの犬どもントコに捕まってたらただじゃあ済まなかったぞ!よぅくボスに礼を言いなァ」

上品な山猫のお嬢サン。
彼らは名前を呼ぶより、そう呼んでフランシスを自分達の“家”へ招いてくれた。
長身で体格がよく強そうな彼らが生きるには厳しいところだと言うくらいなのだから、フランシスなんて弱々しい子供のようなものだ。
だからお嬢サンなんて言われてもそんなんじゃないと強く反発することはできない。
何より、彼らの言葉には馬鹿にするような色が感じられなかった。
お嬢サンと揶揄しつつ、仲間とじゃれる様な。親しみの様なものをそこに感じたから。

「うちらはほとんどが狼だ。あんな犬っころと一緒にしてもらっちゃあ困るぜェ」

同じく群れをつくって生活しているといっても、彼らは狼ということに誇りを持っていた。
だから弱いものをいじめたりしないし、持ってるものを巻き上げたりもしない。

イライアスを中心とする狼の群れは、スラムの外れ、美しく輝く泉を抱える森の入り口に集落を構えていた。
森から切り出した木材と拾い集めたトタンとで小屋の様な家をつくり、そこに暮らしていた。

ある家の前へ来ると、それまでフランシスを守るように囲んで歩いていた面々がすっと身を引いた。
きょろきょろとそれぞれの顔をうかがうと、無視して去っていく者、チラリと目だけでイライアスを示す者が居て、促されるかたちでイライアスに顔を向ける。

あごでしゃくっただけで暗に入れと命じる。
それを確認する意識はなかったが、残っていた二人の顔をまたうかがってしまう。
二人ももう頷くこともなかったので、フランシスはお世話になった礼を言って頭を下げた。


「失礼します」

イライアスは表情が硬く冷たい上に言葉少なで畏怖を覚えるが、木片を継ぎ接ぎしたような扉を開けて招き入れてくれるなど、ところどころに優しさが感じられる。
特に泣いていたフランシスの頬を撫でたあたたかさが思い出される。
優しく触れる繊細な仕草が、意外な印象として強く残った。

「寝台はお前が使えばいい。立派なもんじゃないが、野宿するより楽だろう」

彼が寝台と言ったのは、木でつくった四角い箱に布をかぶせただけのものだった。
イライアスがゆったりと足をのばして寝られるだけの広さがあるので、フランシス一人が寝るなら十分な大きさだった。

「あの、でも、あなたは……?」
「気を使わなくていい。俺は何処でも寝られる。それに今日は少し休んだら見張りに出る」
「見張りって……?」

つい聞いてしまったが、彼は面倒がらずに答えてくれた。
それもフランシスが恐がってると思ったのか、心配するなと前置きをしてだ。

スラムには貧しいものが溢れている。
家が無く、物乞いをしてその日暮らしで日々を生き延びるなんて珍しくもない。
楽に生きようと思えば犯罪に走るのなんて簡単で、スラムでは無防備な者こそが愚かだと嘲笑われる。
そんな世界のすぐそばで、イライアスは安心して眠ることができる平和な集落をつくっていた。
子供が子供らしく、無邪気に笑っていられる世界。
安全な環境で家庭をつくれると働き手も増え、より集落が拡大していく。
そんな恵まれた環境を羨み、もしくは憎み、悪いことを考えて侵入する者は当然出てくる。
それが例の犬のような者達で、彼らは犯罪をするためにつるんで大きなグループをつくっている。
そういった者の手を退けるために、いつも交代で見張りを立て、集落の安全を確保していた。

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