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シリーズ・短篇

天地創造のあと、主神は神々のために働く存在として人を創造された。
地上で人を管理していた半獣の神々が人と契り、その間に誕生したのが獣人である。
肉体に獣の形を有することは神々の子孫である重要な証で、その血を色濃く受け継ぐ獣人はより尊いとされる。
耳やしっぽだけなど影響の薄い者は身分が低く、総じて貧民であった。
さらに獣人ではない人間は徒人(ただびと)と呼ばれ、神々に愛されなかった不吉なものとして忌み嫌われた。
徒人は長い間獣人の奴隷として不遇の歴史を歩んできたが、奴隷解放後は自由と権利を得ている。
しかし血統、階級意識はいまだ根強く残り、差別されることが多いのが現状だ。

獣人の社会でも、百獣の王と称されるライオンは高貴な血統である。
徒人より大きな体躯に大きなライオンの頭という姿は圧倒されるものがある。
だが猫の獣人は小柄で、平均的な徒人サイズもあれば大柄な方だ。
寿命が長く、徒人と比べて何倍も若い時代が長いというのは変わらないものの、ライオンと違って猫は耳としっぽしか神々の証が現れない。

ライオンやトラなどの大型の猫科獣人でなく、小型猫科に入る山猫の血統を持つのがフランシスの家系だ。
道端に転がり、巨大な猛禽類にさらわれても誰も気にかけない貧相な猫とは違う。
大型猫科ほど巨大で頑丈な体格には恵まれないものの、 長身でスレンダーなのが山猫家系の特徴である。
そして何より華奢で小さな猫と違うのは頭部。
山猫家系の中でも、フランシスは獣の頭を持つ高貴な家柄に生まれた。
だが、しかし。
誇りであるその証を、フランシスだけが与えられなかったのだ。
道端の猫と同じく耳としっぽだけしか獣の形をしていない。
その上フランシスは体格にも恵まれず、一族の中でも一人だけ目立って小さかった。
細くて薄い華奢なつくりの体は、そこらへんの猫と間違われてもおかしくないほど。
血統に誇りを抱きこだわるからこそ、猫との不貞はありえない。
はじめは隔世遺伝では?と言われたが、一族に猫の血が混じっていると考えるのが屈辱だったようで、結局は“出来損ない”という結論に落ち着いた。

家業を手伝うようになっても、相変わらず父親に叱られてばかりだ。
長男で後継ぎだから期待されているのだと思えば耐えられた。
それに一族からの風当たりも強い中で、母一人だけが常にフランシスの味方になってくれていたから。

叱られることに慣れていたのだと、今ならわかる。
父の言うことは大概正しいということもあって、悔しさや反省はあるが、我慢できないほどの不満や反発はなかった。
しかしそれもフランシスの人格否定が始まるまでのことだ。
理不尽だと腹を立てることも増え、不満が募り、我慢の限界がきていた。

「やはり出来損ないが産まれたとわかった時に、死産だということにしてさっさと処分しておくべきだったのだ」

その一言で何かが切れた。
もうこんな家に居たくない。
その瞬間、すべてを捨てる覚悟を決めた。

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