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シリーズ・短篇
10
ぽろぽろと涙をこぼし、ぐすぐすと泣き出すと、ジェシーは心配してそばへ寄った。
けれど、触れようとはしない。

「ぼくが、おじさん達に変なことされたから…っ?」
「……え?」

耳を疑ったジェシーは、表情を強張らせて体を離した。
やっぱり、と。
それは追い打ちとなった。

「ぼくが悪い子になっちゃったから、ジェシーはさわってくれないのっ?」

エヴァンは、わぁあん!と声を上げて泣きじゃくった。

「ジェシーが好きなのにぃっ。ガマンしてるんじゃないのに。ジェシーに嫌われたくなかったぁ」
「嫌ってないよ!嫌いじゃない!それに君を悪い子とも思ってない!」
「信じてたのにっ。ジェシーがずっといっしょに居られるって言ったから、ぼく、信じてたもん!不安にならなくていいって言ったから……」

ジェシーは言葉を失った。

「ムリしてないもん!ジェシーが好きだからなのにぃ」

エヴァンの涙の意味を正しく理解した時、深い後悔が襲った。

「ごめん。ごめん、エヴァン」

ジェシーは誤解していた。
まだ心が幼いと思っていたから、そんな感情を抱くと思わなかったのだ。
だからって“家に置いてもらうために体を触られても我慢するんだろう”と言うのは間違いだった。

「許してほしい。君を悪い子だなんて思ったことはないよ?君は悪くない。僕が君を受け入れられないと思うわけがない」

温かな手が、優しい仕草でエヴァンの涙を拭う。

「ごめんね。君は信じてくれていたのに。僕は、君が恐がると思って……。そういう触れ合いは嫌がるかと……。まさか君が、そんな……」
「じゃあ……」

エヴァンと同じ想いを、彼もくれるのだろうか。
そう思ったけれど、不安でその先を口にできなかった。
すると。

「うん、そうだよ。エヴァンがとても可愛いと思ったから。好きだと思ったからキスしたくなった」

ジェシーは、迷わずエヴァンを抱き締めた。

「酷い目に合って脅えているのがかわいそうだと思ったけれど、とてもキレイな子だとも思ったんだ。いけないってわかってるけど、でも。君をどうしても助け出したくなった」

ジェシーは体を放すと、間近で目を覗きこんだ。

「君を僕のものにしたいって思いが芽生えてしまった。君と暮らしていけるようにって、我慢していたのに」

そしてジェシーはまた、唇にそっと触れるだけのキスをした。

「ジェシー、好き」
「うん、僕もだ。エヴァン。君が好きだよ」

もう一度。もう一度。
重なる度、それは深く、長く、濃くなった。

「エヴァン。このことは……、僕達が両想いで、こういうことをする関係だっていうのは、ナイショだよ?」

口止めされずとも、エヴァンは察している。
いとこのルースがずっとそれに悩み、苦しんできたから。
耐えきれずエヴァンを引きずり込み、はけ口にしてきたのだ。
伯父さんはその行為には気付いたが、動機までは正確に把握してはいなかった。
単なる虐待の一種であり、性的な欲求の処理に過ぎないと思ったのだ。
だからこそ、その“お遊び”に加われた。

エヴァンとジェシーは血の繋がりこそないとはいえ、一応は親戚である。
男同士でもあるし、関係が世の中に歓迎されるものではないとわかる。

「だけど時期を見て、ダレルとキャシーには告白しようと思うんだ。彼らは、信頼するカップルだから」

いいよね?と聞かれても、エヴァンに反対する理由は無い。
エヴァンはジェシーが大好きだから。
彼が言うなら、それがすべてだ。

「僕達の関係は、もしかしたら二人にも理解されないかもしれない。でも、僕達が真剣だってことをわかってもらいたい」

エヴァンは力強く頷いた。

「ぼく、ジェシー好き。わかってるよ?おじさんとルースとはちがうもん」
「うん。そうだね。僕達がしてるのは犯罪とは違う。真剣な恋愛だ」

けれども、今の時点では恐らくジェシーも虐待を受けた可哀想な子に手を出したと認識されるだろう。
彼まで地獄に堕ちたのだと、周囲は評価するかもしれない。

エヴァンには、ジェシーが居れば生きていける。
もともとそんなに多くのものを持っていたわけではない。
価値のあるものを持っていたとも思っていない。
けれども、ジェシーはそうではない。
家族が居て、お友達が居て、仕事があって。生活がある。
沢山の、価値あるものを持っている。
エヴァンはもう幸せだから、今度は彼のを考える番だ。
自分との関係で周囲に誤解を与え、損失があってはならない。
今の幸せを損なうことがあってはならない。

エヴァンはもう、被害者ではないのだ。
これは虐待ではなく、恋だと。わかってもらわねばならない。
そのためには、エヴァンは大人にならなければと思った。
脅えてばかりではいられない。
エヴァンを救ってくれたジェシーのために。
二人が幸せになるために。
強くなるのだ。
そう、エヴァンは決意した。

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あきゅろす。
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