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シリーズ・短篇

お土産のケーキを食べながら、エヴァンはキャシーから病院へ行くことをすすめられた。

「私、お医者さんなのよ」

証拠として外傷についてはみてもらったけれど、長い間病院に行ってなかったので、一度ちゃんと細かいところまでみてもらったほうがいいということだ。
心のケアが必要だというのもエヴァンには納得できたが、ジェシーの首肯を確認してから承知した。
父親や伯父さん達の時とは違い、それは畏怖からではなかった。
逆に、ジェシーへの好意からだ。


言われた通り、翌週にはキャシーの居る病院へ行った。
十八の青年が大きなテディベアを抱えているのは目を引いたが、人に脅えて挙動不審なのを見ると大半が自然と距離を置いた。

エヴァンはうつむいていたので、診察室のドアを開けてくれた看護士に気付くのが遅れた。
ぶつかりかけて顔を上げると相手は大柄な男性で、伯父さんに見えたエヴァンはひゅっと息を呑んで硬直した。
すぐに違うとわかったが、背後に居たジェシーとぶつかってしまい、それにも飛び上がってパニックになりかける。

「エヴァン!平気だ。僕だよ」

すぐに、優しい声と温もりが落ち着かせてくれた。

エヴァンはジェシーにはしがみつくが、人に触れられることには敏感でこわがった。
なので、居られる時はなるべくジェシーがそばについていた。


「よくがんばったね」

そう言って、ジェシーは帰りにエヴァンにソフトクリームを買ってくれた。

はじめて会った時から、エヴァンは彼の優しい笑顔が好きだった。
正確にはその前にも顔を合わせているようだが、覚えていないので仕方ない。
ただ、その時に彼が体を張って助けてくれようとしたから無意識に好感を抱いたのだろう。
そんな相手といえども、完全に甘えられてはいない。
やはり新しい環境に慣れるのは時間がかかるし、遠慮があった。

ロフトに助けに来てくれて、指を握ってくれた時のように。
優しく抱き締めてくれて、一緒に寝てくれた時のように。
もっと触れてほしい。もっと甘えさせてほしいという思いを率直に訴えられるわけがない。
日中居ないジェシーと会えるのは、朝の僅かな時間と夜の数時間のみ。
だから日々、寂しさは募る。
よって、週末に一日中一緒に居られるとなると我慢できなくなった。

鬱陶しく思われるのも覚悟で抱きつくと、彼は笑って抱き締めてくれた。
そればかりか、膝に座らせてもくれた。
エヴァンは素直にそれを喜んだ。

「さびしくさせたね」

この優しい眼差しに見つめられて微笑まれると、エヴァンは幸せな気持ちになれる。
彼が触れたところから甘やかな感覚が広がって、ふわりと心が浮き立つ。

彼はどうしてこんなに素敵なのか。
うっとりと目の前の顔に見惚れる。
その時だ。
ゆっくりと近付いてきた顔が、唇に軽く触れるだけのキスをした。

エヴァンが彼に対して抱いていた思いからすると、それは喜ばしい、幸せな行為だった。
エヴァンに笑みが浮かぶよりも、ジェシーがエヴァンを膝から下ろして離れる方が早かった。

「ごめん!エヴァン!」

せっかく舞い上がった心が、急に放り出されてしまった。

「ごめん!悪かった!」
「ジェシー」

謝られるのは嫌だ。
彼が頭を抱えて悔いているのはショックだった。

「僕は、何て事を…っ。本当にごめん!もうしないから…!もう……」

彼は目も合わせない。

「君がどれだけこわい目に合ったか、わかっていたはずなのに…!ごめんね、エヴァン。君を傷付けてやろうと思ってしたわけじゃないんだ!僕は、ただ…っ」
「ジェシー」
「君を不安にさせないって言ったのに。悪かった。だけど、もう絶対にしないからね。君が安心して暮らせるように、責任を持つって誓ったんだから」

彼は、エヴァンを幸せにしてくれる行為を罪として、自制しようとしている。
エヴァンはそれが悲しくて。ちゃんと自分を見てほしくて。そばへ来てほしくて、手をのばす。

「ジェシー。ぼく、だいじょうぶ。ジェシーならこわくない」
「違う。いいんだよ、無理しなくて。エヴァンは何も嫌な思いをしなくてもここに居られるんだから」

ジェシーは、エヴァンがまた犠牲を払うことで追い出されないようにしようと考えたと思ったのだ。

「言っただろう?君が、安心して暮らせるようにするから」
「ジェシー…っ」

エヴァンの声が悲しみで揺らぐと、ジェシーはハッとしてようやく視線を合わせた。

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あきゅろす。
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