シリーズ・短篇
6
「エヴァンは、僕のことはこわくない?」
自身に危険な兆候を見出だしたジェシーは、自制半分、期待半分で問いかけた。
顔を上げたエヴァンは、何を言うの?と言うようにきょとんとしていた。
彼は十八の青年でも、中身はこんな無垢な少年なのだ。
そんな彼に“何か”を期待している自身は、もう十分危険であるとジェシーは自分で思う。
「最初から、僕をこわがらなかったよね?」
それを嬉しく思う気持ちと。
そんなのはジェシーが期待するほどの特別な感情から来るものではないという理性がせめぎあう。
「うん。ジェシー、好き」
辿々しく発音されたその言葉は、想定以上にジェシーの理性をうちのめしてくれた。
それがどんな感情から来る表現であっても、どんな種類のものでも、だ。
心底から吹き出した情動が、ぎゅうっと胸のあたりでつっかえて、甘狂おしく吐息にかわる。
それは至上の喜びをジェシーに与えた。
けれど、なおも少年は悦楽を寄越す。
「ジェシー、こわくないよ?ぎゅーってしても平気。好きだから、うれしいの」
ジェシーは思わず両腕を背中にまわして、この可愛らしい子を抱き締めていた。
頭の片隅でいけないと思ったが、エヴァンがにっこりと笑う顔が嬉しそうで止める判断まではできなかった。
「ジェシー、好き」
悦楽が、ジェシーの背中を押した。
「うん。僕も、エヴァンが好きだよ」
そこには、熱を持った下心が含まれている。
欲望に負けて踏み出してしまった先は、ルースが言った通り“地獄”だとジェシーは知った。
このまま理性が追いやられて、欲望が表出してしまえば、ジェシーは彼らの二の舞になるだろう。
それは何より腕の中の愛しい存在を不幸にする結末だった。
そんな可能性に戦慄して、自制心に拍車をかける。
それでも、ジェシーはエヴァンを言い訳にして、欲望を僅かばかりに満足させんと賭けに出る。
「エヴァン。こわいなら、今日はここで一緒に寝ようか?」
平気だと言って戻ってくれるならそれでいい。
伯父さん達に酷い目にあったのだ。
男と一緒に寝るなんて不快に思うことは容易に想像できる。
なのに、エヴァンははにかんで承知した。
荒れ狂う欲望を悟られず一晩過ごす苦労より、拒まれなかったことに舞い上がるジェシーはもう手遅れと言えた。
「それじゃあ、マクラを持っておいで」
ジェシーは、ロフトで触れた時と同様。指先を撫でる仕草から彼への愛しさを切り離すことができなかった。
「うんっ」
エヴァンがあまりに気を許し、信頼して頼ってくれるから。
だからこそ尚更、やましい想いを捨てねばならないのに。
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