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シリーズ・短篇

「かわいそうに。ショックが大きかったんだろう。覚えてないんだね」

眉を寄せ、ジェシーがさらりとエヴァンの頭を撫でる。

「おじさんの他に誰も居ないって言ったのに物音がしたから、怪しいと思ってね。家の中を見せてほしいって言ったら揉み合いになったんだ。そこに派手にガラスが割れる音がしたものだから、無理に押し通った。そしたら君が居て……」

ジェシーはそこで口ごもったが、エヴァンにはその先が想像できた。
自ら狙って人前に出ただけでなく、物を壊した事にも伯父さんは腹を立てただろう。
カッときて、恐らく衝動的に殴ったのかもしれない。
そしてそれは正解だと、続く言葉でわかった。

「この目で証拠を見たからね。警察を呼んで捕まえてもらった。だけど君は隠れてしまっていて、すぐには見つからなかったんだ。そこで、もしかしたら体格のいい大人の男をこわがってるんじゃないか?とか、知らない人間がこわいんじゃ?ってことになって、ひとまず僕が君の捜索と保護を任された。いつルースが戻ってくるともわからないからね。それで警察は今ルースを捜してる。捕まえたって連絡があれば、君はもっと安心になるよ」

確かに。伯父さんに殴られただけよりも、それはエヴァンに恐怖を与えそうな状況である。
知らない大人が何人も、しかも体格のいい屈強な警察官が乗り込んできて逮捕劇を繰り広げたり、自分を保護せんと捜して追い回すのだ。
一部の記憶が抜け落ちているのは、その時の恐怖からかもしれないと思えた。

「二人が逮捕されるのは君を監禁した罪だ。地下室を見ればわかる。でも、それ以上の事があったと証明できるのは君だけだ」

ダレルの言う通り、エヴァンは薄暗く寒い地下室で寝起きしていた。
コンクリートの床に直接古いマットレスが置かれ、そのすぐそばを通る剥き出しのパイプにはエヴァンを拘束するためのロープや手錠が通されていた。

震える手が強くクッションを握り締めるのを見て、ジェシーは無理をしなくてもいいと言ったが、エヴァンは口を開いた。

「……ルースが、いじわるするの」

誰にも言えなかったことを、今初めて明かす。

「おじさんは、口ではダメって言ってたけど……笑ってたから……。言うことを聞かなかった。それで、おじさんもその内殴るようになって。それで……」
「それで?暴力がエスカレートした?」

先を躊躇うエヴァンの言葉を、ジェシーが引き取る。
エヴァンは頷いたが、それだけでは済まなかった。

「ルースが、怒るの。でも時々やさしくなる。そうするとルースが『いいものを見せてやる』って。ぼくに、動画を見せて……。それで、同じ事をやってみろ、って……。イヤって言うとまた怒るから……ぼく……」
「エヴァン。その動画って?」

逡巡の後、エヴァンは涙ぐみそれを告白した。

「えっちな、の……。男同士で“する”と、地獄に堕ちるんだって……」

ジェシーは絶句し、ダレルは信じられないと怒りも滲ませ首を振った。

「ぼくだけズルイ、って。ルースは苦しんでるのに、ぼくが“そう”じゃないから……」

やっとの思いで口を開いたジェシーは、怒りを堪えながら、伯父さんはそれに気づかなかったのかとたずねた。
だが、現実は地獄だった。

「……知ってた」

エヴァンは、これが異常な事だと理解していた。
それを十分ルースから聞かされて学ばされていたから。
だから伯父さんが止めなかった時、より大きな衝撃が襲ったのだ。

「おじさんは、ルースがぼくに何をしてるか気づいたけど、ぼくが悪いって怒った。ぼくのせい、って。それで、おじさんも、同じことを……」

拘束はエヴァンを逃がさないためのものであったが、“その時”にも使われた。
嫌がって暴れたり抵抗するとエヴァンを殴り、拘束してレイプしたのだ。
そして時には二人同時に相手させられることもあった。

「エヴァン。それを警察でも話してくれるかい?とても恐くて、つらい事だってわかるけど、僕も一緒に行くから。これは絶対に許されることではない…!」

憤るジェシーに同意して、ダレルも付き添うと申し出た。

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あきゅろす。
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