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シリーズ・短篇
16
「すみれ。引っ越しが済んだら、我が家に来てくれるかな?」
「ええ。はい、もちろんです。遊びに行きます」

クリスが相手を汚してしまうからと手を出させなかったのは、こんな感覚と近いのかな?と、すみれは思った。
感情を自制せねばならないのは、こんなにもつらいのかと。

「その時は、すみれ。君には永遠のお姫様として来てほしい」

あまりに驚いて、すみれは口を開けたまま、言葉が思いつかず今の言葉を何度も反芻した。
その末に出てきた返事は失敗だったと、すぐにすみれは後悔した。

「僕っ、何の作法も知らないので、一から教えてくださいっ!」

クリスは目を丸くしてから、一拍置いて弾けるように笑いはじめた。

「あっはっはっはっ!」
「違います!そういう意味じゃなくて…!僕、誰かとお付き合いしたことってないから……あ、だからそういうことじゃなくって…っ」

性的な意味じゃないと慌てて弁解するが、うまくいかない。

「あははっ。うん、わかってるよ。大丈夫。くくっ、はっはっはっはっ」

目尻に滲んだ涙を拭いながら、堪えきれずに笑いがこぼれる。
すみれは真っ赤になって小さくなっている。

「何て可愛い答えだろう。あぁ、どうしよう。僕、こういう付き合い方って初めてだから君に嫌われないようにしなきゃってドキドキしてたけど。自制心が吹っ飛びそうだ」

揶揄でなく可愛いとクリスに思われたのは、すみれにとって恥ずかしい失態の中での救いだった。
けれどクリスもすみれと同じく、何か失態をおかして相手に嫌われたくないと思っていたのだと知れて、すみれは肩の力が抜ける気がした。
それを見抜いたかのように、クリスが微笑んで言う。

「君だけじゃない。これから二人で、一から始めよう」

晴れやかなスタートをきる。

手を繋いで、ぴょんと飛び越えた障害の先には、わくわくする未来がある。
この人とならそう思える。
二人は互いに同じ思いを抱いた。

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あきゅろす。
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