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シリーズ・短篇
15
「どんな理由があれ、僕は不道徳な事をしてきた。それもちっとも悪いと思わずにね。今でも後悔はしてないし、素敵な出逢いと経験だったって言えるくらいだよ。僕には必要なものだった」

そんなことだから最低なんだと言われたら反論はできない。

「互いに承知の上だったし、僕はそれを誠実だったと言える。けれど、不道徳な事だとわからないわけじゃない。人がそれをどう言ってるのか聞こえてくるし、最低な男だと十分わかっていたよ」

だからこそ寄ってくる人は居たし、自分でもそれを利用していた。

「だからね?この子には僕なんか必要ないんだろうなっていう純白のお姫様には、とても手が出せなかったんだよ。僕のせいで、せっかく素敵な輝きを曇らせてしまうと思ったらね」

自分と一緒じゃない方が幸せに笑って居られる。
そしてこちらもそれを幸せに見ていられる。

「まさか僕が、たった一人のお姫様に永遠の愛を誓うなんて高尚なマネができるとは想像できなかったし。しようとも思ってなかったんだ」

こんな事を平気で想いを寄せてくれる子の前で言えるほど、自分の醜い部分を自覚しているから。
そんな日は自分に訪れないだろうと思った。

「運命、って言葉で片付けるのは好きじゃないけど。きっと僕はここへ来るはずだったんだと思う。誰がどう考えてもいずれはそうなるべきだったって言うんだろうけどね」

けれど、タイミングなのだ。
そうしてすみれと出逢った。

公園ですみれに見損なったと言われたのを思い起こして、クリスはふと目を伏せてきゅっと眉根を寄せた。
それを見たすみれはそこに彼の泣いた姿がダブって、胸がぎゅっと苦しくなる。

「君に見損なったと言われた時、すべての救いから見放されてしまったと思えるような絶望感を覚えた。だから君を失いたくなくて……。君には酷い事を言ってしまったね」

申し訳なかったと謝ると、すみれはいいえ。と首を振った。

「僕も、突然あんな……。酷い事をしてしまったと反省してるんです。ごめんなさい」

すみれの好意は少なからず察していたから、それならば関係を結んでしまった方がマシだと思った。
けれどそうならなくてよかったと後になって思う。

「知っての通り、僕の不道徳な関係はあそこで全部無くなったよ。君が忍びこんできた時にね」

すみれが見放さずに戻って来てくれたのを、わざとおどけてからかうように言う。
だからクリスは救いになったと思っているのに、性格上それがとても罪深い事と反省しているらしく、言う度に小さくなってしまうのだ。
クリスにはそれがとても新鮮で面白いことに見えた。

「大丈夫。うまいこと言って裏でまだ遊んでやろうとは思ってないから。君は僕の救いの天使だからね。今度こそ誰が見ても誠実な思いで言いきれる。誓えるよ」
「ええ、もちろん。信じてます」

晴れやかなスタートをきれると言ったクリスを。

話していてクリスが嘘をつくような人ではないと感じたから、奔放な生活を送っていると知った時にあれほど憤ったのだ。
けれど今になってわかる。
彼は、本当に彼なりの誠実さで恋人達と付き合っていたんだと。
あんな状況でもつらいのを押し殺して恋人達を送り出した、彼の優しさを。
軽薄だから別れをきりだされても簡単に飲み込めたのだとは思わなかった。
『一人だ』と泣いた彼の、深い悲しみを知ったから。

それに思った。
恋人達にはそれぞれ久し振りと言っていたから。
それにそれぞれ、恋人らしい感情は無くなっていて関係が変化しているのを感じたから。
だから少し。いや、だいぶ図々しい事を思ってしまった。
もしかしたら、自分がその恋人になれるんじゃないかと。
そうなれれば幸せなことだけれど、クリスがカフェの店員と客という関係を望むならそれを受け入れる覚悟をしてきた。
それで彼の悲しみを、少しでも癒してあげられるなら。
けれど実際に会って顔を見てしまうと。
そして会話をしてしまうと、そうなるのはとてもつらい。

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あきゅろす。
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