シリーズ・短篇
13
タイミング。
意味があると思ってしまう。
必然性を感じてしまう。
「僕じゃあ、クリスさんの特別な存在にはなれませんか?」
すみれはそれを望んでくれるのか。
誤解していた兄の愛に気付き、愛すべき子達も卒業した今。
自分を必要としてくれる子達に頼る関係をもうこれ以上続けなくてもいいのかもしれない。
すみれとなら恋人として誠実な関係を築けるかもしれない。
もしもギルバートに見放されても、すみれとなら。
クリスが決心する前に、すみれが更に歩み寄る。
「僕はムリですか?遊びだとしても……?」
「だめだ!いけない…!」
すみれはショックを受け、じわりと涙を滲ませた。
「違うよ。そうじゃない。君が遊びでなんて言ったらいけない」
「だって…っ。僕、クリスさんが好き…!」
誘惑に負けて、クリスはふわりと黒髪を撫でた。
「泣かないで」
今まで自分も泣いていたくせに。
触れてみたかった頬を指の背で撫でる。
「君は笑った方が素敵なんだから」
一度触ったら欲が出る。
頬を染めて涙目で見上げるすみれが可愛らしくて、もっと見たいと思ってしまった。
するりと腰に手をまわして側へ引き寄せ、間近で見つめる。
すみれは照れるだけで何も言わない。
「すみれ」
呼ぶと、嬉しそうにふわっと笑みを浮かべた。
「あぁ、やっぱり。笑った方が可愛いよ」
すみれは照れた顔を隠すようにうつむいた。
これ以上こうしていると、抱き締めてキスをしてしまいたくなる。
「すみれ。今日のところは、帰ってくれるね?」
せっかくの笑顔が陰る。
そして探るようにクリスを見た。
「また後で、カフェに行くから。だから今は、ね?いい子だから」
すみれは納得したようにひとつ頷くと、一人で帰っていった。
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