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シリーズ・短篇

偶然は重なる。
ギルバートから、クリスにお見合いの話が持ち込まれたのだ。
パーティでのクリスを見て、正しい道へ引き戻し真っ当な人間にせねばと火がついてしまったのかもしれない。

それは無理だと、きっと互いにわかっているのに。
それでも兄や相手の顔を潰さないようにその話を受けた。
何処かで、ギルバートがそこまで自分を嫌悪しているのは期待されてる裏返しでは?と思ったからだ。
そして期待通りの人間になれば、やっと弟として愛してくれることもあるかもしれない、と。

ギルバートの憎悪の向こうに、そんな期待とも願望ともしれぬ思いを抱き夢を見ている。
それは到底叶わないだろうとわかっているのに。

無関心よりずっといい。
泥にまみれていても。手に入らないとしても。
希望がそこにあるのだと思っていたい。


クリスの甘い微笑みを受けて、お見合い相手の女性もにっこりと微笑み返した。
一人では生きていけなさそうな、はかなげで守ってあげたくなるタイプに見えたのに、クリスはその笑みを見て、おや。と、思った。
そこに芯の強さを感じた。
またか、と。クリスは既視感を覚えた。
パーティで会ったあの少女然り。すみれ然り。
この人にも恐らく自分は必要ないのでは?という予感。
そしてそれは的中した。

もともとお見合い相手なのだからクリスの享楽的な生活に彼女を引き入れるわけにはいかない。
それ以外に関係を結ぶやり方を持たないクリスには、どちらにしろ彼女は手を出せない相手だ。

つまらない。

そう思ったクリスの頬を殴る様に、彼女は二人きりになるとクリスに鋭い言葉を放った。

「私、このお話を聞いた時、是非お会いしなきゃと思ったんです。こういう形でしかお会いする機会がなかったのは残念ですけれど」

貴方のお見合いなんて不本意だ、と。
ちくり。

「クリスさんのお噂はもちろん聞いて知っています。私はそれをいいとも悪いとも言う立場にはありませんが、ただ。お兄様と良好でない関係にあると聞いてお話をしたいと思いました」

貴方と私は関係ない、と。
ちくり。

「私は人伝てに噂話を聞いただけですし、当然すべてを知っているわけでもありません。けれど、きっと今のクリスさんはお辛い状態なのでは?と思ったんです」

違いますか?と、真っ直ぐに向けられた目が言っていた。
何故?どうしてそんなことを?と聞けば、暗に肯定したととられるだろう。
彼女はきっとそれを見抜く。
それならいっそ潔く、彼女が察したというところも曝してしまった方がいい。
例えどれほど軽蔑されても、率直に話した方がまだ誠実だという印象を与えられる。
それで彼女がこのお見合いを断るのにいい理由もできる。
クリストフ・カージュはやはり最低の人間だった、と。

「そうですね。兄とのことで言えば、今はずいぶん叱られてまいってますよ。何せ僕がこんな人間なので」

だからこのお見合いに出てこなければならなかった。
貴方が思ってる通り、僕はこんな最低な人間だから。

率直に返しても、彼女は表情を動かさない。
そのようですね。と言い返してくるかと思ったが、彼女は先へ進んだ。

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あきゅろす。
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