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シリーズ・短篇

すみれと会ったのは、デートの待ち合わせまでの時間を潰すために入ったカフェだった。
とても可愛い男の子だったので、少しの時間話し相手になってくれれば楽しくなると考えた。
それだけだった。

真っ直ぐな黒髪に黒い目は神秘的で美しく、興味を引いた。
働いているのだからそれなりの年齢だとは予想できる。
それに日本人は実際の年齢よりも若く見えるというし、子供ではないんだろうなと考えていた。
が、二十四には見えなかった。
しかも聞けば同じ大学出身ということで、嬉しそうに「先輩ですね」と笑った顔がまた可愛い。
それでうっかりでれっと笑ってしまったら、ほんのり頬を染めて目をそらされるという意外な反応を見れた。
こちらに下心も遊び心も無く、美しく可愛らしい子を観賞して会話を楽しめれば……程度に思っていたのと、相手が子供に見えるのが大きい。
彼がそんな反応をするとは思わなかった。
不意を突かれ、この可愛らしい子に興味がわくほどには心を動かされた。
けれど腰を上げなかったのは、彼もまたあの少女の様に、悪い男にすがる必要のない純白なお姫様であると感じたからだ。

それからクリスは割りきって、ただこの可愛らしい子を見るためだけにこのカフェへ時折訪れるようになった。
意図せずすみれを照れさせることは何度かあったものの、クリスは可愛いと思うだけで流していた。


タイミングが合っただけ。
偶然が重なっただけで、そこに意味があるのでは?と思ってしまう。

愛する子達が支えを必要としなくなり、卒業して旅立っていくのは嬉しい事だ。
別れるのはさみしくもあるが、決して引き止めてはならない。

関係に快楽が伴わなくなっても友人として会うことはあるし、もう完全に何処で何をしてるのかわからない場合もある。
例えもう二度と会えないのだとしても、まだいいじゃないかと引きずり下ろすのはかわいそうだ。
真剣に想う人が出来たというメロディにやめろとは言えないし、もしかしたら想いを寄せていた彼と付き合えるかもしれないというユリにそんなのは無理だと酷なことを言えるわけがない。

関係の卒業を、それも二人との別れを覚悟せねばならない。
とても楽しかったから、最後も快く送り出してあげたい。
いい思い出として、意味あるものとして残ってくれるように。

二人のように繋がりが強く、愛情が深い関係になるまで時間がかかる。
それ以上に、そうなれる子との出逢いが要る。
それがとても難しい事だ。

今一番お気に入りのすみれを誘い入れてもいいけれど、真面目で素直な彼にこの関係はとても不潔で不誠実なものと嫌悪されるだろう。
彼には今のままこの醜悪な面を明かさずに、たまに来て話すだけのお客さんのままでいた方がいい。
その方がすみれの可愛らしい笑顔を見られる。
快感の中でどんな風になるかも興味はあるが、今のクリスではそんな関係になることは難しい。

そういった意味で、すみれはとてもハードルの高い子だ。
そしてそれを越えようとするだけの動機も今は無い。
きっとこれからもそれはないだろうな、と。クリスは少し残念に思った。

クリスに、生き方を変える気はちっとも無い。

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あきゅろす。
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