シリーズ・短篇 3 ギルバートが立ち去ると、クリスから自然と溜息がもれた。 どんなに大切な顧客か知らないが、わざわざ彼がお目付け役にならなくともよいでは。 そう思うとやはり、気持ちがどんどん沈んでいく。 彼の憎悪を身に受ける。それが憂鬱なのだ。 こんな日に会いたくなるのはクローディアだった。 メロディは甘え上手でとても可愛らしい子だが、誰かに寄りかかりたくなった時はクローディアの方が頼りやすい。 それに彼女は、クリスが甘えるととても喜んでくれた。 「突然だけど、今日会えるかな?少し、顔を見られるだけでいいんだ」 やはり。クローディアは、電話越しにうふふと笑った。 『もちろん構わないわ。だけど、顔を見るだけで満足なの?せめてディナーには誘ってくれるんでしょ?』 明るく冗談めかして言ってみせる声を聞いただけで、クリスはほっとしてつられて笑っていた。 「そうだね。流れ次第ではデザートも欲しくなるかも」 彼女と会ってすっかり気持ちが持ち直したら、その気になることもあるかもしれない。 乗せられてクリスも冗談めかして言うと、クローディアは「欲張りね」と言って笑った。 電話越しにキスして切ると、もう少しだけ気持ちが軽くなっていた。 二人の関係はとてもうまくいっている。 彼女が落ち込んだ時はクリスが慰めてあげるし、今回の様にクリスが落ち込めば彼女が甘えさせてくれる。 快楽に没頭せずとも、本当に会って話すだけで満足することも沢山ある。 必要な時に支え合い、補いあう。 他の子達との関係もそうだ。 互いに必要としあい、その関係を築いている。 そしてそれぞれが皆、それを承知しているのだ。 性格がハンサムなクローディアは、 待ち合わせに遅れたことを謝ると「そんなこと」と笑い飛ばした。 「それよりお腹すいちゃった。何か食べましょ」 彼女は綺麗で色気もあるのに、たくましくて一人でも生きていけそうだからと言ってモテないそうだ。 けれど、クリスはそんなところが彼女らしくて好きだった。 「やっぱり、君と居ると楽しいよ」 これが悪だと言うならそれで構わない。 だから、いくら嫌われても仕方ない。 例え品行方正にしたって、蔑まれるものは蔑まれるし、嘲笑られるものは嘲笑られる。 自分は愛人の子で、その愛人は娼婦で。 自分が出来たそのたった一回以来遂にまともに相手にされなくて。 挙げ句薬に溺れてしまって。身も心もぼろぼろになって、惨めに死んでいったのだから。 せめてもの罪滅ぼしに、お情けで父に拾われたのも、醜聞の収拾をつけるやむを得ない行為だった。 愛情など初めからありはしない。 だが、ここまで育ててくれたことに感謝はしている。 それをこれ以上、プライベートまで束縛されるようなら考えるしかない。 いっそ母のようになるのも運命かと。 [*前へ][次へ#] [戻る] |