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シリーズ・短篇

クリスにとってパーティはいつも楽しみなものだが、今回はとても憂鬱だった。
わざわざ職場で自分のもとへやってきて、人の視線がある場所で話しかけることも驚きだったが、兄がパーティに出席するというのだ。

厳格な兄は、愛人との子である不品行な義弟を軽蔑していた。

「クリス」
「ギルバート…!」

兄は、クリスに兄弟として接せられることを嫌った。
人前であろうと嫌悪を隠すことはしない。
家族関係や兄弟間の事情を知る周囲もギルバートの訪問は驚きだろうが、これにはクリスが一番驚き、戸惑った。

「な…っ、どうしたんですか?」

ふんわりとやわらかなプラチナブロンドに、美しいと形容される顔立ちは母譲りだ。
身長は百七十半ばで、それなりに鍛えてもいる。
それなのに中性的な印象を与えるのは母似の顔立ちのせいもあるが、その性質によるところが大きい。
よく言えば柔和で社交的。
だが兄に言わせると、いつもヘラヘラと締まりがなくだらしない。
軽薄で調子がいい。下品な享楽主義者。
風紀を乱し、人に害悪をなす。

いくら悪し様に言われても、美しい男性に微笑まれながら甘い言葉を告げられ、優しくされるのは嬉しいものだ。
まともに受け取ってはいけない、本気になってはいけない悪い男とわかっていても、女性陣はどうしても彼を完全に嫌いになりきれずにいる。
それは出生による同情もあってのことだ。
だからクリスが兄の前で麗しい微笑を強張らせるのを好奇の目で見ながら、いささか気の毒にも感じていた。
気まずそうに目をそらし、弱々しい声を発する彼に。

「あの、わざわざいらっしゃられるような事が……?」
「なかったらわざわざ来たりしない」
「ええ、そうですね。愚問でした……」

ギルバートは嘲りでさえクリスに笑みを寄越さない。
父に似た彼と、母に似たクリスでは半分血が繋がっていると思えないほど似たところが無い。
なでつけられたブラウンの髪も。
鋭い眼光。太い眉に大きな鼻という男らしい顔立ちも。
頑丈でたくましい体格も。

顔を背けずとも伏し目がちにするだけで視線が合わなくて済むのは、クリスにとって助かる点だった。

「近々パーティがあるようだが」

欧州の元王族が各界のセレブを招いてチャリティーパーティを開くのだ。
そんなものはどうでもいいとばかりに、ギルバートは説明の言葉を遮った。

「古くから付き合いのある大事な顧客のご令孫が出席される。十八のお嬢様で、お前に会いたがっているそうだ。お前の醜聞についてはよく聞かされて説得されたそうだが、我儘に折れたらしい」

兄弟と思われることを嫌悪する彼が、何故人前で話し掛けたのかクリスはわかった気がした。
彼は、クリスを辱しめたかったのだ。

「今のところ身の程に合った相手とうまくやってるようだが、うちに迷惑をかけるような事があれば特別扱いはしない。容赦なく処分する」

クリスは自身に対してよりも、自らが愛する子達を蔑んだ言い様が引っ掛かった。
けれどクリスはそれを堪え、笑みをひきつらせて頷いてみせた。

「はい。もちろんです」
「“何事”も無いようにと約束をしたので、私が目付け役として出席する」

信用されてない事などショックではない。
ただ。そのような手配も警告も、人を使えば済むことなのに、彼が自らやって来たことがショックだった。
今更人前で辱しめられてもプライドが傷付くことはないが、それほど彼の中にある憎悪が大きいのかと思うのはさすがにこたえる。

「ご迷惑がないようにします」

クリスだってさすがに十八のお嬢さんに手を出したりしない。
それも大事な顧客の親族に。
しかしそんなことは彼には通じない。
彼にすればクリスは無節操で、獣も同然な存在なのだ。

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あきゅろす。
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