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シリーズ・短篇
10
僕はいつもただ単純に、藤堂さんに対して気持ちを言葉にして訴え、わかってもらおうとしただけだった。

「こいつは喋らせると、俺を喜ばせるのがうまい。しかも計算じゃないからタチが悪い」

ニヤリと笑ったのが少し自慢げにも見えて、言葉通り喜んでくれたのだとわかった。

「そうみたいですね」
「本当。可愛い子ですね」

あまりじっと見ても失礼だとは思ったが、それより言葉の意味をきちんと捉えたくて誰かが話す度に観察した。
ホステスさん達は感じよく微笑んでいる。

「せっかくだから、何か食うか?」

こういう場所は初めてだから、そう言われても戸惑ってしまう。
するとホステスさんが、鈴蘭ちゃんにぴったりのがあると言って選んでくれた。

運ばれてきたそのカラフルなタワーに、わぁっと口を開けて驚いた。
円すい型の土台にマカロンがはりついている。

「マカロン、タワー?」

食べていーい?ときらきらした目で窺って、許可を得ると手をのばす。

「マカロン」

はがしたピンクのそれを見せてから口に運ぶと、いちご味がふわんと広がった。

「んっ。おいひぃ。マカロンてこんなにおいしいんですね。初めて食べました」

ホステスさんに甘いもの好き?と聞かれて頷くと、お似合いね!とくすくす笑われた。
ジャケットの袖をちょんちょんと引いて、藤堂さんにその感動を伝える。

「おいしいっ」

もっと食えと言われて、うきうきと次へ手をのばす。

「紫は……ブルーベリーだ!おいしい。ねぇ、藤堂さんっ」
「わかった、わかった」

いちいち報告するので藤堂さんは吹き出した。
黄色は?オレンジは?と食べていると山口さんが豪快に笑ったので、はしゃぎすぎたかとふと冷静になる。
だが、ご機嫌で食え食えとすすめた。
眼福だ、と。

「鈴蘭の君にかかれば、お前もすっかり毒気を抜かれるな」

藤堂さんはふんっと胸を張る。

「だから言ったでしょう。試す必要は無いって」

小さい頃から、ホールのケーキなんて食べられなかった。
誕生日やクリスマスでも三角のしかなくて、僕は丸くて大きなケーキに憧れた。
日々食事としてとるもの以外、デザートは余計で、贅沢なものだという感覚だったので、いまだに甘いものは好きだった。
一時はどうなるかと思ったが、引き離されずに済んだし、マカロンというおいしいものも食べられてとても幸せだった。

ホステスさん達に見送られ、外でタクシーを待つ間、こそっともう一度確認した。

「僕、本当に失礼は無かったですか?」

ちゃんと言葉の意味を捉えて会話できたか不安だし、マカロンではしゃいでしまった。

「まだ心配してるのか。大丈夫だ。いい子だって言われたろ?」

一体いつ言われたかはわからなかったけれど、率直でわかりやすい人がそう言うのだから納得した。
こくりと頷くと肩を抱き寄せられたので、抱きつくようにしてそっとくっつく。

「お前、まだ飽きて捨てられるって考えてんのか」

少しの沈黙の後、藤堂さんは静かに口を開いた。

「俺がお前を手放すわけねぇっつったろ」
「もしもです。もしもそうなったら、って」

肩から腕をするりと撫でさすられたのは、慰めてくれたという事だろうか。

「俺が居なきゃ生きてけねぇ奴を放り出すほど、俺は薄情じゃねぇつもりだ」

見上げてじっと見つめる。
藤堂さんはにこりともしなかったけれど、十分に優しさを感じられた。

「いい子だ。お前は可愛い奴だよ」

間違いでなければ、褒められたのだとわかった。
そこでやっと、僕は藤堂さんに喜んでもらえるような事をできたんだと実感した。

「ずっと側に置いてください」

僕はそれだけで幸せになれる。

「はなさないで」

他に我儘は言わないから、それだけは叶えてほしい。
そしてそれが、藤堂さんの幸せでもある事を願ってる。

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あきゅろす。
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