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シリーズ・短篇

声がした気がして、ぎゅっと潤んだ目を擦る。

「泉!」

顔を上げると、その人がそこに立っていた。

「藤堂さ」
「お前、大丈夫か!?呑まされてんのか!?」

側へ来るなり頬に手を添え、顔を覗き込んだ。
びっくりしてうまく言葉が出なくて、ふるふると首を振って答える。

「山口さん!鈴蘭を預かるって犯行予告みたいな電話だけしてさらうのはよしてください!」

彼は悪びれず笑うだけだ。

「お前も!人を簡単に信用してついていくな!」
「でも、藤堂さんの友人だって」
「それを信用すんな、って言ってんだ!」

ホステスさんになだめられて隣に座ったが、まだお説教は続行する。

「目の前で俺に電話したように見えても、フリかもしれないだろ。お前からも必ず連絡を寄越せ!いいな!」

一応頷くが不満なのが見えたようで、イライラと促される。

「何だ」
「だって……。鈴蘭って、言ったから……」

ちらりと山口さんを窺って、うつむく。
勝手に大事にされていると思ったから、藤堂さんが大事なことを無闇に人に喋ったりしないと思ったのだ。
知っている人なら、余程近い人なのだろうと。
とはいえ、危ない事をしたことにはかわりないので、反省する。

「……ごめんなさい。気をつけます。約束します」

きちんと目を見て言うと、溜息まじりに頷いてくれた。

「鈴蘭にご執心だな。そんなに可愛いか」

山口さんが揶揄すると、ホステスさん達もくすくす笑った。
けれどそれは嘲笑ではなく、好意的に微笑ましくという感じだ。

「藤堂さんが夢中になるのを初めて見たわ。ご利益があるかしら」
「というより、お相手をお迎えにいらっしゃるのは初めてじゃない?」
「さすが、前代未聞の大本命。名に劣らず、ね」

むっつりと黙りこむ藤堂さんに、山口さんが言う。

「毒を隠してるんじゃないかと揺さぶってみたが、出てくるのは甘ったるい花の蜜ばかりだ」
「当然です」

意味がわからず説明を求めて藤堂さんを見上げると、眉間にシワを寄せ渋々といったように教えてくれた。

「山口さんは親父の知り合いで、俺も昔からお世話になってる方だ。それで“鈴蘭”も知ってる」
「お前が暴れて欲しがった花だもんなぁ」

山口さんが面白がって口を挟むのを、聞き流して続ける。

「わかったろ。ああやって俺につく虫を追い払うのを楽しんでるんだ」
「親心ってやつだ。お前がハマってる鈴蘭って花が、そこまでされるに相応しいのか、な」

試されたのだ。
何を目当てに近付いたのか。
人に言われて怖じ気づく程度の、軽い覚悟で居るのか、と。
悪い虫がつかないよう。
そして、ホステスさん達も協力者だったのだろう。
その部分は把握して納得したが、不安はいまだ残っている。

「それじゃあ……僕は……。大丈夫ですか?まだ一緒に居ていいですか?」

山口さんを見て、藤堂さんへも視線を向ける。
反射的にジャケットを指先だけでちょこっとつまんだのは、なけなしの勇気ですがったからだった。

「大丈夫だったって言ってもらったろ?」

いつ?と思い返して、毒が無いと言ったのがそういう意味だったと理解した。
よかった。
安心して、強張った表情もほころびる。

「しかしお前何を喋った?」
「え……僕、何か……?」

何かいけない事をしただろうか。
そこに気付けない事が更に情けない。

「お前に捨てられるまでは一緒に居たいって言っただけだよ、なぁ?そうなっちゃ生きてけないってツラしてな」

話したのは本心だったが、さらっと藤堂さんの前で核心をさらけ出されて、恥ずかしくなった。
健気ねぇ。とホステスさん達は芝居がかって言うが、嫌味でないとわかった。

「悪意が無いかと探ったんだけど、出てきたのは甘〜いお話だったっておっしゃったのよ」
「ノロケって事ね。だから藤堂さんは照れて、何を話したのかって聞いたのよ」

のろけた意識が無かったから、その意味がわかってなかった。
ただ攻撃性はないと判断してくれたんだと思っていた。
言葉の意図を把握するのは難しい。
人の心を見るのは難しい。

「僕、のろけたつもりじゃ……」

嫌だったかと思って謝ると、藤堂さんは諦めたように脱力して笑った。
それすらまたノロケだと言われるのが理解できなくて、笑われて恥ずかしい思いをした。
貴方が居なくちゃ生きていけないと言ったのが本心からだと告白したのと同じだと言われて、ようやくそちらの意味に気付いた。

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