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シリーズ・短篇

「香山は藤堂のツレだ」

煙草を挟んだ指でこちらを指し、席に着いたホステスさん達に言う。
ツレという表現をどういう意味で使ったのか。
気になったが余計な事は言わずに黙っていた
けれど、まぁ本当?と驚いて見る反応がその答えを教えてくれた。

「さすが藤堂さん。美人さんだわ」
「こんな可愛らしい子が本命だったのねぇ」

彼とホステスさん達の間ではどうやら恋人という認識で通ったようだ。
それと気になるのは、ホステスさん達が藤堂さんを知っている事だった。

「『鈴蘭の君』だ」

何です?それ。と尋ねられ、彼はこちらを見ながら答えた。

「ヤツが恋い焦がれる、大本命。お稚児さんだよ」

年下の男の恋人という意味で使ったのだろうが、未成年だからとアルコールを断ったのを皮肉って稚児と言われた気がした。
子供だ、と。
何だか藤堂さんに恥をかかせてしまったようで、恥ずかしくてうつむいてしまった。

「ヤツがどれ程の男か知りたいだろう。聞かせてやれ」

意地悪ね。とくすくす笑いながらも、ホステスさん達が話しはじめた。

「藤堂さんはとってもおモテになるって話よ。女性にも男性にも」
「お相手はもちろんセクシーな方よね。未熟で無知な子だと楽しめないもの」
「そういうお遊びには慣れてらっしゃるから、キレイになさるわね。お相手と揉めたと聞いた事が無いわ」

当て擦りでは?と理解しても、怒る気にはなれなかった。

「どんなに素敵な方を連れてらしても、本気には見えなかったのに。意外だわ」
「どの方も長引かせなかったわね」
「鈴蘭ちゃんが本命だったのなら、私達にも敵わないはずよね」

嘲笑。
貴方なんか遊んだらすぐに捨てられるわよ。と、語っていた。

「ヤツの本性を知ってショックか?鈴蘭の君」

藤堂さんが遊んでただろうという事はちらっと聞いて知っていた。
だから、生々しい証言を耳にしてショックを受けたのではない。

「いえ、僕は……」

それよりも、藤堂さんの友人や知人に否定、拒否された事の方がショックだった。
男の、それもまだ子供がその気になって藤堂さんの恋人を気取ってるなど、彼らから見ればお笑いなのだろう。

自惚れていた?
勘違いしていたのだろうか。
僕は、たまたま気紛れで手に取られた物珍しいオモチャだった?
刷り込みの様に。心が目覚めて、虚しいと気付いて、彼に相手をされて舞い上がったのか。
そうして。僕は、勝手に。藤堂さんを運命だと思ったのだ。
忘れずに迎えに来てくれた。
彼だから動かされた、と。

「どうした。鈴蘭の君だろう?自信が無いのか?だったら、飽きて捨てられる前に身を引いた方がキレイだぞ」

追いすがるのは無様だと彼は言った。
それが更に傷をえぐる。

「僕は……」

手放せというのか。
せっかく手に入れたと思った心を。
運命とさえ思えた心を。

「僕は、それでも……。オモチャでもいいんです」

オモチャじゃ嫌だと泣いて訴えた。
それじゃあいつか捨てられるんでしょ?と。
惹かれていても、捨てられたら打ちのめされるとわかったから。

「遊びでも、構いません……」

後の長い人生を、虚ろに、惨めに生きていくしかないとわかったから。
なのに、僕は今まったく逆の事を言っている。

「いつか捨てられるんでも……」
「それまで甘い汁を搾り取る、か?」

彼は鼻で笑った。
一瞬意味が理解できなかったが、金目当てかと言われたのでは?と思ったら余計にショックだった。
そんなに藤堂さんに相応しくないのだろうか。
僕は、そんなに藤堂さんに不利益だという事か。
僕の存在が、そんなに藤堂さんに邪魔なのか。

「僕は、藤堂さんに人の心を教えてもらったんです。人を人として見るように」

笑われても構わない。
それは大事な、藤堂さんとの真実だから。

「僕は何も無かったから。何も……持ってなかったから……」

手が震える。
声が揺らいで、視界が潤む。

「藤堂さんがもしも飽きたら、今度こそ……。本当に一人になっちゃうから…っ」

手のひらに爪を立て、必死に涙を堪えた。

「例え遊びだったとしても。いつか捨てられるんだとしても。……それまでは一緒に居たい」

奪ってほしくない。
信じて、認めてくれるかわからないけれど。
だって。

「僕にはもう、藤堂さんしかないから…っ」

もう少し。
せめてもう少しだけ、僕に幸せをください。
やめろと言わないで。

「泉!」

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