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シリーズ・短篇

次に篠田君達と会った時、早速その事について話した。
というよりも、名前を出しただけで「アイツ何かしましたか?」という具合に先に言われ、面食らってしまった。

「香山さんは“そういう”誘いはきっぱり断ると思ってたんで、安心してたんですよ。すいません」
「面倒な事になる前にフラれるだろうって……」

彼らは、な?と顔を見合わせた。
少し誤解があるようだ。

「彼に下心は感じなかったよ。僕は、友人としての距離感が近いなとは感じたけど」

それを困って言おうとしてたと話すと、彼らは意味ありげに目配せした。

「……何?」

不安になって思わず聞いた。

「自分達も確証があるわけじゃないですけど、やっぱり感じますよ?下心とまではいかないとしても……」
「独占欲っていうか……。俺達に仲がいいアピールして張り合ってるような。牽制してるみたいな」

男と付き合ってる事を知っているから、その先入観で彼らは佐伯君の事もそうだと勘違いしたのかもしれない。
友人としての強い感情を。
だから何かしたのでは?と心配してくれたのだろう。
そう思ったが、何も言わずに黙っておいた。
彼らのそれが、優しさから来るものだとわかったから。

「自分達からうまく言っておきます」
「ありがとう」

恋愛に疎いから騙されやすいのでは?と思いきや、これまで嫌なものは嫌だと断ってきた鉄壁の実績がある。
壁を崩され心を持ち、人を好きになる事を覚えたからといってドミノ式にあれもこれも許されるわけじゃない。
いまだ人に対しての警戒心は強いのだ。

そんな事があった翌日すぐに、佐伯は泉のもとへやって来た。
態度には変わりないので、彼らからまだ聞いていないのだと思った。
それとも忠告に気付いていないのか、気付いても無視してるのか。
思いながら構内を歩いていると、突然距離を詰められびくりと後ずさる。

「香山さん」

内緒話のように声を抑えて呼んだので、顔を寄せるのも耐えるべきだと思うが、やはり自然と逃げを打つ。

「篠田達に何か言われました?」

どきりと胸が跳ねたのは、罪悪感からだった。
後ろめたくて目をそらす。

「香山さんと居ると注目されて、自慢になるから、自分達で独占しようとしてるんですよ」

彼は、篠田君達の話をそうとってしまったのだ。
自分は悪意をもって遠ざけられる、と。

「周りに見せびらかして、紹介しておきながら、自分達より近づいたら邪魔をして」

子供みたいな事を……と、彼は毒づいた。
どちらも、仲良くしてくれようとしただけなのに。
自分のせいで、彼らの友情を壊してしまう。

「ごめん。違う、僕が」
「利用されてると思いますよ」

言葉を遮り、強い口調で彼は続ける。

「待って、違う」
「自分達の方が香山さんのこと知ってるような顔をして、自慢してるんですよ。香山さんが綺麗で目立つからって…!」

エスカレートする怒りの中に、ちらりと違和感が見えた。
まさか。と思い、動揺する。

「ああいうの友達って言えないですよ!だけど、俺は違いますからね」

篠田君達は、心配してくれたのに。
変な事を聞いても真面目に答えてくれて、笑わず、嫌わず、話してくれただけなのに。
申し訳なくて、そして自分が情けなくて涙が滲んだ。

「もう、やめてほしいんだ」

ぐっと堪え、口にした。
彼らの事を、彼らの友人である佐伯君に悪く言ってほしくなかった。

「篠田君達の事を悪く言うのも」

初めから、違和感があったのは彼の方だ。

「少し、近すぎるのも……」

彼は言葉を失った。
それがこんなに心を痛めるとは。

「僕を思って、親しくしてくれるのは嬉しいしありがたいけど……少し、息苦しくて……」

人の好意を断る時に、こんな気持ちになった事は無い。
かつて言った覚えがあるようなセリフに、本当はこんな意味があったなんて。
僕は知らなかった。

「ごめん。僕が全部悪いんだ。せっかく親しくしてくれるのに、嫌な思いをさせたら申し訳ないと思って。それで僕が篠田君達に」
「何だよ……。邪魔なのは俺だったんですね」
「邪魔とかじゃ」

彼はもう、聞いてはくれなかった。

「そういう態度が人を誤解させるんじゃないですか!?嫌いなら嫌いって言っていいですよ!」

傷付けないか、不快にさせないかを気にして、結局彼を傷付けた。
篠田君達にも迷惑をかけた。
涙が溢れそうになって、自分まで傷付いたのだと思った。

「……っ。すいません……」

行ってしまう背中を見つめ、己の至らなさを反省した。
自分が情けない。

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