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Lovely Prince

風呂上がりに髪を乾かしてもらった後、ソファーで小説を読み進める。
その右側では、片手を腰に回し、本を覗き込む様に寄り添う温もりがあった。
けれど風呂上がりで温まって眠くなったのか、いつの間にか会話は途切れ、気付けば静かな寝息が耳に届いている。

キリのいい所で本を閉じると肩に乗った顔を伺う。
すぐには起きそうもないけれど、今起こさないと夜中に眠れなくなったりしないだろうか。
そんな心配がありながら見ているとつい考えてしまう。
真面目になれば格好いいのに、いつもふざけていて、やたら触ったりくっついてくるぐらいにしか思っていなかった。
それが気付けばいつもそばに居て、今はこうして二人で居られる事を幸せに思う。

頭が落ちない様に気を付けながらゆっくり体を少し右側に向け、指先でシャツを掴む。
少しの間そうしていると規則的な寝息が止み、大きく吸い込んだ息が耳元で吐き出される。
目が合ってから、もうすぐお休みと言う時間だけれどおはようと言うべきなのか迷う。
そこで一旦躊躇った結果タイミングを逃し、黙って見つめ合うというぎこちない空気が漂った。
しかしそう感じているのは自分だけだったのか、寝起き早々不敵な笑みを浮かべ口づけられた。

「寝てる間に可愛い事してるからしちゃった」

しちゃった、なんてすまなそうな言葉を選んだくせに、悪びれる様子も無く笑う。
照れてそれには何も言えず、気になっていた話を思い出して尋ねてみる。

「今日の電話、何だったんだ?」

あぁ、と嫌そうな声を漏らし、両手はちゃっかりと腰を抱き寄せている。

「兄貴んちの留守番」
「京が?お兄さんちの?」
「うん。出張が重なったから来てくれってさ」

共働きの二人の出張が重なり、子供二人とペットの面倒をみてもらいたいらしい。

「何日くらい?」
「どう調整しても週末の二日は重なって無理だって言うから、二日。だけど、もしかしたら延びるかもって」
「そうか」

来週末でまだ少し先とはいえ、家族の大事な用事なんだから仕方がない。

「俺は二人で行ければ、って考えてるんだけど、来てくれるか?」

髪に触れながら真剣な顔で問われると、目を合わせたままでは居られない。

「お兄さん達と、京がいいんなら……大丈夫なら、行きたい」

二日だけかもしれないけれど、やっぱり一人なのは嫌で。

「じゃあ行こうか」

そう言って抱き締めてくれた声が優しくて、嬉しい。

「新婚気分どころか、通り越して一気にパパママだな」
「まさかそれが目的で一緒に来いって言ったんじゃないよな?」
「初めから半分以上それ目的だ」

冗談で言ったそれに乗って一緒に笑った京は、本当のところどうなのか。
やっぱり、一緒に居たかったんだと思っていてほしい。

「冗談だよ。千草を一人にはしておけない。そばに居たいから、ね」

欲しい想いを、丁寧に言葉にしてくれる。
なのに言葉では返せなくて、背中に手を回して抱きつくので精一杯だった。
擦り寄った頭をさらりと撫でられて、その温もりの中で幸せを噛みしめた。

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