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Lovely Prince

呼び出された理由について、何だったの?と昼食の席で気軽に聞いたのは誠だった。

「一条先生が、一真さんの友達だった。それで、家族の話を少し……」

誠と里久は驚いて声を上げたが、心配そうな顔をしているのは黒川だ。取り乱したりしなかったのかと心配なのだろう。
京は口を挟まなかったが、人差し指の背でするりと千草の頬を撫でた。まるで泣いた事を指摘するかのようで、千草は見透かされたとどきりと心臓が跳ねた。
わずかな瞠目で、京は泣いた事を確信したかもしれない。
ごまかすように、千草はもうひとつの話についても口にした。

「それと、寮で乱暴されかけた事を聞きたいと言われた。だから、その前のも含めて正直に話した」
「“その前のも”って……」

自分が居合わせた時のは二度目だったと知って、黒川は戸惑っている。
職員会議で問題にされる事を京は歓迎しているが、黒川にはそれがのんきに見えて不満なようだった。

「君は、平気なのか?犯人が罰せられるのは歓迎だが、二次被害というものがあるだろう。事が大きくなれば君に精神的なダメージが……」

かまわない。と、千草は小さく首を振った。

「実害が無ければ問題ない。何て思われようが、何を言われようが、耳にしなければ無いのと同じだ。むしろ犯人の方が気にすると思う。それで自分が何をしたのか後悔すればいい」
「そうか……」

黒川は千草を強いと言ったが、それが危ういバランスで保たれている事を京は知っている。まともに受け止めたらどうなるかわからないから、意識的に余計なものを排除しているのだ。
感情の波がそう大きくないのも、無意識に精神の安定をはかっているからだと。
千草が二度も“乱暴されかけた”というワードは近場の席の面々を驚愕させたが、本人はそんな反応など目に入れない。

「もしかしたら先生、その話を聞いてからまず一真さんに連絡したんじゃないかな。報告か、相談か。それで千草と話す許可を得たんじゃないか?」

千草は隣を見上げ、どうして?と目で問う。

「うちの親も、一真さんに許可もらったらしいから」

千草は目を合わせたまま、わずかに目を見開いた。

「一応うちが保護者ってことになってるけど、やっぱり叔父さんだし。心理的な事でもプロだし。それで喜んで、早速千草に会いたいって連絡が来た。今度一緒にうちに帰ってきなさいってさ」

どうする?と聞かれて、千草に迷いはなかった。こくこくと頷いて、ほんのり微笑む。

「行く」

嬉しそうな顔を見てしまうと、周囲はすっかり乱暴の衝撃など忘れ、珍しく声を弾ませるのを喜んで噛み締めた。

「一真さんとは出掛けた事あるけど、京とは初めて」
「なぁに?デートが楽しみ?」

千草は“デート”を否定せず、くすくすと楽しげに笑う。
すると京は満足げに、愛しい者を見る眼差しで甘く微笑む。

「いい機会だから“俺達付き合ってます”って報告する?」
「一真さんに伝わるかもってわかっててそんな冗談言うつもり?」
「冗談じゃないよ。俺は本気だね」
「本気ならなお質が悪い」

千草の声から刺々しさが抜け、笑みが加わるようになったら、それこそ二人は“冗談”ではなくなる。恋人同士の仲睦まじい空気が、そこに漂いはじめる。

千草がご機嫌だったのは、それから数日ほどだ。その日が近づくほどに千草の元気はなくなっていった。
はじめは外出に浮かれていただけだったが、外出許可が出た途端に京の家族と再会する実感がわいてナーバスになっていると京は理解していた。
その不安や緊張感がピークに達したのは前日で、千草は眠れずに京の部屋を訪ねた。

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あきゅろす。
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