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Lovely Prince

一人でソファーに居る時は、目を閉じたらまた悪夢を見そうで横になるのも怖かった。
隣に京が居てくれる時は寄りかかって休む事ができるし、話している内に落ち着いて次第にうとうとできる。
だが、まさか抱き締められて一緒にベッドに入ることになろうとは。
確かに悪夢など見そうにもない安心感はある。だが、それに反して緊張感があるのも事実だ。
抱き締められるかたちで寄り添った体勢で、千草は無防備な顔を見られたくなくて京の胸に頬を寄せた。
京に抱き締められてそわそわした感覚は、胸の中で膨らんで今や苦しいと感じるほどになっている。
これが“ドキドキする”という事なら、ちっとも楽しくなんてないと千草は思った。
何だか叫び出したいような、暴れたいような衝動がわいてくる。

体の上を通り背にあった手が、上へ移動して髪をさらさらと撫でる。
子供をあやす様な仕草だが、状況のせいか、そこからどうしても愛情を感じてしまってますます胸が苦しくなる。
やり場のない衝動に支配され、考えるより体が動いた。京の胸に頬をすり寄せ、自らも腕をのばして抱きつく。
行動の後から、これは甘える行為だと認識が追いつき、羞恥がわく。けれど胸の苦しさはおさまらず、もっともっと甘えたいと思ってしまう。なのに、千草にはこれ以上どうすればいいかわからなかった。
その時。ぎゅうっと強く抱き締められ、どきんっと心臓が跳ねるのがわかった。
千草はたまらず頬を寄せて抱きつき、それでも足りなくて足でも触れた。触れ合っているのが心地よくて、心が満たされるのを感じる。
背にあった手がまた髪を撫で、不意に額に唇が触れた。
千草はハッとして閉じていた目を開いた。
密着して触れ合っているのだから、些細なものでも千草が今一瞬びくりと反応したのは気づいただろう。
顔が熱くなり、赤面しているであろうと思うと、千草は顔を上げられなくなった。
長い指が髪に差し込まれ、耳のふちを指がかすめる。それだけでまたどきんと心臓が跳ねる。
軽く触れるだけのキスが額に落ちて、思い知る。自分は、この人に想われているのだと。そしてそれがとても嬉しいと。
最早そんな事は自覚する前に露呈しているかもしれないが、まだ自分の中ではっきりと答えを出したくはなかった。
だから、京がこれ以上は事を進めようとしないのがありがたくて、ほっとした。



ふと目が覚めた時の景色がいつもと違う。
ぼんやりと考えて、千草ははたと気がつく。京の部屋で寝たのだ。
しかし、その人は隣に居ない。

「千草、起きて!あっ、起きてた?ごめん、寝過ごした」
「くぁ…、ふぁー……。んぅー…っ」

おっきなあくびと伸びをしたかと思えば、両手をだらんと京へのばす。
起こせという事かと察した京は、ふっと笑って優しく千草を引っ張り起こした。そのまま抱き締められた千草は、くすくすと楽しげに笑う。

「ほら、準備しないと」
「ふふっ、はぁい」

くるっと体を反転させられ、後ろから抱き締められたまま部屋を出る。

「おーい!起きてるかー?そろそろ行かないとヤベ……」

ちょうど二人で部屋から出てきた瞬間を目撃した誠は言葉を失って立ち尽くし、里久は口を開けたまま真っ赤になった。

「あっ…そう。……そう、ですか。なら仕方ないっ。お二人とも寝不足ですか!」
「は?」

寝起きで働かない頭では何を言いたいのか理解するのも億劫で、千草は鬱陶しげに眉を寄せる。

「そうそう、寝不足ですよ!君らが想像するようなイヤラシイ理由ではないけどなっ。むしろシリアスな理由だよ!」
「えっ、何?じゃあ、うなされた千草に添い寝してやっただけ?お前よく手ぇ出さなかったなぁ!」
「ちょっと、誠!」

さすがに里久も誠をいさめるが、千草は不機嫌さを顔に出したまま洗面所へ向かった。
京は深い溜息をつき、誠を無視して部屋に引っ込んだ。

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あきゅろす。
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