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Lovely Prince

案外指名を免れるものだな…と、千草の気がゆるんだ矢先。

「俺だ、一番」

京が指名されたのは、ゲーム終了まで三番を膝に座らせておくという命令だ。三番は誰かという問いに千草が手を上げると、驚きの声があがる。
誠は特に動揺はないが、里久は照れてうつむいた。

「えぇー、抱っこかぁ」
「ワガママ言うな、お前。それで不満だとこちらの方々がご立腹だぞ」

誠に“こちら”と言われた面々は、ぶんぶんと首を振って否定する。

「だって、せっかく千草とだったのにー」

文句を言いながら、京はさっと両手を広げる。
千草は不満も疑問も無く黙ってそこに座り、腹部にするりと腕がまわされても嫌がる素振りはない。
それらがあまりに自然に行われるから、これが二人にとって日常なのだと印象づけて、密かに一同を照れさせた。


「俺が居ると、ゲームがつまらなくなるんじゃないか?」

千草は率直な疑問を口にしただけで、否定されたいわけではなかった。そんな事を望んではいない。

「どうして?」

千草の表情はそう大きく変わるわけではないのに、京はぐいっと千草を横抱きにし、わざわざ顔を見て話す。
上っ面ではなく、心の動きを見通そうとするように。
だから「そんなわけない」とすぐに否定するのではなく、千草が何故そう思ったかを考えられるのだ。
そんな京だから、千草も心を開ける。

「気を使わせてるというか……。仲が良い人達だけでやった方が、きっと楽しい」

盛り下げる発言だと承知している。けれどこのまま気まずい時間を過ごすのも、それを他人に強いるのも嫌なのだ。
ところが、京はふっと吹き出した。

「千草が居るからいいんじゃないか。普段なら感じられない特別な緊張感!なぁ?」
「はい…!」

内容がゆるくてもスリル満点だと、おのおの心臓を押さえたり、天井を仰いで肯定する。

「ギャーギャー騒ぐだけが“楽しい”んじゃないから、そんな心配しなくて大丈夫だよ。千草はおとなしく俺に抱っこされてればいーのっ」

さっきは抱っこで落胆していたというのに、今はにこにこと嬉しそうに腕を千草に巻きつかせている。
あまり過激な命令が出されない事も、ご機嫌の理由のひとつだった。

普段から冗談めかして“俺の千草”と公言している京だが、第三者にとっては何ら冗談ではすまない。
既に友人として特別な存在だと認識されている上に、隠す気のないその好意が本気だと伝わるから。独り占めして、大切に守り、愛しているのだとわかる。
千草に何かあれば、本人よりもよほど京の反応の方が恐れられるくらいだ。
皆が二人の関係の進展を噂するのも当然の流れだった。

そんなことを含めて、千草に好意を抱く者の多くは最早京をライバルだなどと思ってもいない。
千草にとって彼が特別だという点を除いても、まともにぶつかって敵う相手ではないというのも大きい。
必然的に、京にも好意は少なからず寄せられる。
彼らにおいても千草は意識する相手だが、こちらの方がお相手を敵視する傾向にある。
京に想われても決してなびかない態度が嫉妬を煽り、高慢で厚顔だと反感を抱かせるのだ。
加えて、はっきりと対抗心を燃やす者が居るのも特徴である。
もちろん、競争相手は作り物の様に綺麗な人だとわかっている。そこに難癖を付けるのは稚拙で、痛々しいというものだ。
ただ、千草とは違う魅力があると自負し、敵わない相手ではないと強気な姿勢でいるだけだ。


千草はだらりと遠慮無く京をイス代わりにし、肩口に頭を乗せてすっかり寛いでいる。

「楽しかったのか?」

最後までその楽しさを実感できなかった千草は、ころりと頭を動かして“イス”にたずねる。

「俺は千草とくっついて居られたから楽しかった〜」

皆がどうだったのかを聞いたのに。と、千草はきゅっと眉を寄せたが、それを口にはしなかった。
今は他人がどうかよりも、自分の楽しさの方で頭がいっぱいなのだろう。
ふぅっと溜息をつき、腹部に巻きつく腕をぱたぱたと叩く。

「放せ。終わりだろ」
「えーっ」
「“えー”じゃない」

二人のやりとりを里久は微笑ましく見守り、誠はけらけら笑った。

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