Lovely Prince 2 ふと目覚めたその視界に、何人かの足が映る。 何故囲まれているんだろう?と、千草は眠気でぼんやりしながら眺めた。 「千草」 穏やかな低音に反応し、ころんと頭を動かすと、そこにはいつもの笑顔がある。 「おはよう」 「……はよ」 両手で目を擦る幼い仕草。 くわぁっとあくびをしながら背をそらし、うぅんと伸びをする姿も、寝顔と同じく目を引くのは、それが隙のある一瞬だからだ。 「寝不足だったのか?」 「んや、ここあったかくて……。あれ……?」 目の前に立っていたのが黒川だと気付き、千草はまたころんと頭を動かす。 ぱたぱたと瞬きをして、頭上にハテナを飛ばす。 「今この状況が危ないとは思わないが、少しは警戒心を持った方がいいんじゃないか?」 何の話だろう?と視線をはしらせ、そこここに顔を見つけてぎょっと目を丸くする。 人が居なくて静かだから選んだのに、少し眠っている間にこうなっていたのだ。気にしていたら何もできない。 千草は黒川と目を合わせても、返事はしなかった。 寝起きでふわんとほころんでいた空気は、あっという間に硬質なバリアに変わる。 ホームルームが終わるとすぐに、誠はクラスメイトの輪の中に居た。 割り箸でクジをして、買い物やその荷物持ちを決めるらしい。 そんな彼らに対し、里久は「じゃんけんで決めればいいのに……」と冷めた目をしている。 「わかってねーなー!ゲーム性だよゲーム性!日常のちょっとした事でも楽しもうという工夫じゃないか、里久君!」 京はそこに関与せず、千草と二人でさっさと帰る気だった。が、誠に引き止められる。 「なぁなぁ!どうせだからお前らも一緒に王様ゲームしよーぜ!」 はあ!?と驚いて声をあげたのは、発案者の誠以外全員だ。 王様ゲームとは。千草は理解できず固まった。 「絶っ対、ダメ!!」 ゲームならば面白がりそうなものだが、京は断固拒否の姿勢だ。 「俺の千草に何されるかわかったもんじゃない!千草に色んな事していーのは俺だけの特権なの!」 千草としてはそんな特権認めた覚えはないが、いちいち反応して否定するのも面倒なので無視した。 「よし、帰ろう!すぐ帰ろう、千草。こんなとこ居たら危険極まりないからな!」 「いいのかぁ〜?京。お前にだってチャンスは与えられるんだぞ?」 帰ると言い張っていた筈なのに、京は甘い誘惑にぴくりと反応した。 「ちょっと、京……」 何をされるかわからないから危険だと言ったそばから。まさか…と、わずかに不安がよぎる。 「俺はなにも千草を引き込んで自分の株を上げようってんじゃない。お前のために言ってんだ。千草とアレコレ出来る絶好の機会なんだぞ〜?」 遂に頭を抱えて唸り始め、雲行きがあやしくなってきた。 「ゲームなら千草だって文句は言わないよなぁ、千草?」 「いや、京。帰るんだよな……?」 私欲ために京が自分を犠牲にするわけがない。と、千草はすっかり信じてしまっていた。 けれど、必ずしもそうとは限らないようだ。 「……千草」 京だって人間で、高校二年の男子なのだ。 「ごめん、千草ぁーー!!」 七人の他には誰も居なくなった教室で、王様ゲームをやろうとしている。 「……帰る」 考えてみれば京がやると言っただけで、千草は参加すると言っていないのだ。 「千草が欠けたら意味無くなるだろ!」 「意味なんて知るかっ」 抵抗するが、京にがっちり捕まえられたら逃げようがない。 挙げ句、誠が割り箸を引かないと強制的に番号公開などと悪魔の様な事を言うので、渋々参加になった。 ただでさえ近寄り難い千草が不機嫌そうに黙りこんでいると、クラスメイトでも背筋がのびる。 彼と一緒にゲームができるとか、彼とそれこそ接触できるかもなんて浮かれるより、彼に下らない事はさせられないという緊張感が勝った。 童謡を歌うとか、モノマネをするなどと発表される度にびくびくしてしまい、ちっともゲームを楽しむ余裕はない。 [*前へ][次へ#] [戻る] |