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Lovely Prince

夕暮れもまもなく終わる頃、京は心配になって部屋で一人そわそわと外を眺めていた。
あまり過保護に構いすぎるとまた怒らせてしまうのはわかっているのだが、何かあってからでは遅い。ひとたび壊れてしまったら、元の通りに戻るとは限らないのだ。

「……よし」

嫌な顔をされようが、迎えに行って安全を確かめるまでは落ち着かない。
電気はつけたまま部屋を出る。
すれ違う場合も考えて寮で待っていてもらおうと誠と里久に声をかけたのに、彼らも心配して一緒に捜すと言い出した。
なので、留守番は黒川に頼んだ。

「向こうで本に夢中になってるのかもしれないし、高嶺さんか誰かにつかまってるのかも」
「あぁ。そうだな」

ぎこちない笑顔は、黒川の精一杯の応援だった。
入口で黒川と別れ、図書館へ急ぐ。


「あれぇ?可愛い千草君はどうしたの?」

道中、出会ったのは図書委員の森城先輩だ。
“可愛い”という要らぬ装飾に独占欲と嫉妬心を刺激されながらも、京は落ち着いて聞き返した。

「図書館で千草見ませんでした?」
「え?ずっとカウンターに居たけど、来なかったよ? ……って、見てた方がよかったみたいだね」

期待外れとばかりにがっくり項垂れる三人を見て、森城先輩は気まずそうに顔をそらした。

「何で見てないんですか!先輩、図書委員でしょ!?」

訳もわからぬまま誠に理不尽に責められ、どうすればいいかわからなくなった結果。彼は誠へのセクハラで仕返しにはしった。

「しょうがないじゃないか、来なかったんだからー。千草君が居ないなら、君がセクハラに付き合いなさい!」
「だぁーからぁー!堂々とセクハラって言われて誰が付き合えますか!大体、今はそれどころじゃ…!ぎゃーっ!」

京と里久は、犠牲になった誠を置いて寮へ引き返した。


「おいコラ、貴様ら!見捨てやがったな!」

息を切らして追いついた誠が、二人の肩をがっちり掴む。

「楽しんでたみたいだから。邪魔かな、って」

里久はさらりと微笑み、京は一瞥だけくれる。

「いい事されて喜んでたから気を利かせたんだろうが、まったく」
「何だその『やれやれ世話が焼ける』みたいなテンション!誰が喜ぶかっ!」
「森城先輩かぁ。おめでとう」
「ちがぁう!やめろ!」

誠は堪えきれず顔を真っ赤にし、頭を抱え絶叫した。


「居たか!?」

京が首を振ると、黒川もさすがに眉を寄せた。
何処に行ったのかと立ち尽くす面々の空気を察し、一人の生徒がおずおずと声をかける。

「悪い、黒川。これ……」

彼は一冊の本を差し出した。

「娯楽室に、図書館の本があったんだよ」
「誰かが置き忘れたんじゃないのか?」
「いや。俺もそうだと思って聞いたんだけどさ、そこの廊下に落ちてたっていうから……」

シリーズものの古いファンタジー小説で、千草も同じシリーズを読んでいた。そう何気なく思った京は、ハッとした。

「それ、何処に落ちてたって!?」
「えっ、さぁ?そこの廊下って言ってたけど……」

京に聞かれて目を丸くしながら、彼は娯楽室の先を指した。

「京っ!?」

走り出した京を、誠達が追う。


『使用中』の札がかかったドアを思いきり開く。
暗幕が引かれているのに、スクリーンやTV画面には何の映像も映されていない。
ただ広がるこの暗闇に、震えてうずくまる彼が居るだけだ。

「千草ッ!」

涙で頬を濡らしながら、千草は声を出さないよう両手で必死に口を塞いでいた。

「千草、もういい!」

京は強引に手を引き剥がすと、千草を抱え上げてひとまず部屋から出した。とにかく明るい場所に移して、落ち着かせたかったのだ。

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あきゅろす。
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