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Lovely Prince

「可愛いなーっ。京君には悪いけど、僕のものにしちゃいたいなー」

何で京に悪いのかは疑問だが、返事に困る。むしろいきなり抱き締められた驚きで言葉が出ない。

「千草にそんな事すると京が怒りますよ」

本を抱えて通りかかった誠が呆れ顔で言った。

「えーっ。だって千草君可愛いのにー」
「いや、意味わかりませんよ、その言い訳」
「じゃあ多賀君がセクハラに付き合ってくれるの?」
「堂々とセクハラって言われて誰が頷きますか。だぁーっ!やめて下さい!」

誠が先輩の相手をしてくれているのをいい事に、千草はさっさと台車を押して運ぶ。取っ手がついているタイプだから屈まなくて済んでかなり楽だ。

あいてるところに適当に…と言ったのに、大体手の届く範囲は埋まっていて、あとは上の方の段しかない。

「うー…んっ。……無理」

頑張って背伸びをしても、やっぱり届かない。こんな時京が居てくれたら手伝ってくれるのに……としょぼんと項垂れ、恐らく試合中であろう京に心中で助けを求めた。

「手伝ってやろうか?」
「チカさん」

現れた救世主は、かなりの長身の副会長。京とも十センチ以上の差はあるというのに、それ以上に大きくて近付くと圧倒される。

「あの、お願いします」

自分があれ程頑張って背伸びをしてもかすりもしなかった棚に、次々と本が片付けられていく。
台車に積まれた本を渡しながら、羨ましいと思った。
千草だって決して背が低くはないけれど、百七十をちょっと越えるくらいだし。気付けば自分が小さいんじゃないかと思うくらいに周りが体格がいい人ばかりになっていた。

いいなぁ……背が高くて。

「くれないか。それ」

千草は本を渡すのも忘れ、両手で抱き締めていた。

「あ……ごめんなさい」

慌てて渡したけれど、ちょっと恥ずかしくなって話をそらす。

「チカさんは何でここに?」
「大量の本が寄贈されたついでに本の整理もしようと七瀬が言い出したから、手伝いも兼ねて顔を出してる」
「そうだったんですか」

片付けなんて何で急に?と思っていたが、それが原因だったのか。それにしても世の中には太っ腹な人が居るものだ。

「ところで新海は、身長がコンプレックスなのか?」
「え……?」
「さっき言っただろ。『いいなぁ』って」

無意識に口に出していた事を聞かれていて、千草は顔が熱くなって両手で頬をおさえた。

「だって、上に届かないから」
「俺はこのサイズが手頃でいいと思うが?」

無表情のまま、ぽすっと頭に手を置かれた。

「手頃?」

慰めてくれているんだろうが、何だか小さいって言われてるみたいだ。

「可愛いって意味だ」

最後の一冊をしまい終えると、チカさんはさっさと台車を引いて行ってしまった。

幼い頃ならいざ知らず、何故いまだに可愛いと言われるのか千草には疑問だった。
もしかしたら皆が背が高くて体格がいいから、少しくらい小さいとそう感じるのかもしれない。確かに千草より小さい里久は可愛いタイプだと思う。


千草が薄暗い本棚の間から出てくると、それを発見した学生が声をあげた。

「あれ!?新海さん!?」
「新海さんだ…!」
「うわ、近っ!」

千草は彼らを一瞥しただけで、本のタイトルや表紙でジャンルの見当をつけはじめる。
騒がしい者達は仕事をしろと注意されると、本を抱えそそくさと散って行った。

順調に作業ははかどったが、それでも終わったのは午後六時を過ぎてからだった。まもなく夕日が完全に隠れる。
誠と里久は、他の何人かと雑務の為に残されるようだ。

「危ないから、待ってろよ」
「遅くなったら京君が心配するんじゃないの?きっと部屋で待ってると思うよ?」

誠が言った後から、図書委員の森城先輩が微笑んで言う。

「先輩は千草を一人で帰らす気ですか!何かあったらどうするんですか!?」
「君はこの学園に強姦をするような人間が居るとでも思ってるのか?まぁストーカーが居ないとは言い切れないけど」
「そのストーカーが危ないんでしょ」

二人が言い合っているのをよそに、千草はふと思い出した。京はバスケの試合なのだ。
疲れて帰ってきて部屋に誰も居ないとなると、何だかちょっとかわいそうに思えた。

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あきゅろす。
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