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Lovely Prince

そうだ。と思い出して、京はバスケ部の助っ人に呼ばれたと千草に報告する。
自慢したいわけでも褒められたいわけでもなく、事務連絡としてただ淡々と告げるだけだ。

「なるべく早く帰る」

この真剣な表情と声色だけでかっこいいと喜ばれるシーンだが、千草はちらりと視線を合わせるだけで、特にそれ以上の反応はない。
ただ言葉に含まれる意味を理解して、じっと見つめ返す。すると京の方もそれが伝わった事を理解するのだ。
だが、第三者には真意など一切見えない。
だから席に戻った誠がすかさずツッコむ。

「おいコラ、そこののろけカップル。人目を気にする事を覚えたらどうだ」

先程まで友人にあれこれ二人の事を聞かれていただけに、若干の八つ当たりも含まれている。

「そんなものに捉われてたまるか!」

京がビシッと誠を指さす。
確かに誠の言い分も正しいが、里久はどちらかと言えば京寄りの意見だ。

「気にしたってどうしようもない域にまで達してると思うけど」

京が里久に「よく言った」と感動しているところを誠が遮る。

「待て京、千草が完全に無関心」

頬杖をついて、視線は既に窓の外にある。
そもそも会話が耳に入っているのかも疑問だ。

「一番気にしてないのが人目を集める張本人ってどうなの?」

里久が思った事をそのまま口に出したが、誠も同感だった。


いつもなら一緒だが、急なバスケ部の呼び出しにより昼食の席に京が居ない。
それだけでチラチラと視線が集まるのを里久は居心地悪く感じる。

「多賀。今日、京さんは?」
「居なーい」

他のテーブルから乗り出して一人が聞くと、それに加わって次々と声が重なる。

「何でっ?」
「何かあったのか?」

千草は一瞥もせず、ちぎったパンのかけらを口に運ぶ。
隣に座る里久はペペロンチーノをくるくるとフォークに巻き付けながら、誠と千草の顔をきょろきょろと見ている。
周りの状況に全く関心が無い様子の千草だが、里久がそわそわしているのには気付いてことりと小さく首を傾げる。
里久は何て言っていいかわからず、困って誠の方へ視線を向けるだけだ。
それにつられて千草の関心がやっとそちらへ向くと、周囲の動きがぴたりと止まる。
誠はニヤリと笑うと、おどけた調子で口を開いた。

「新海さんは、京とケンカしたのか!?」

ゆっくりと瞬きを繰り返し、潤った唇が薄く開かれる間、急かす声も不満の色も無く皆注視する。

「京と一緒じゃないから、もしかしたら千草とケンカしたんじゃないかって……」

こそっと横から囁かれるのを聞いて、千草はうろうろと視線を泳がせるしかない。

「ほら見ろ。お前らが変な事言うから千草が動揺してんだろうが」
「えっ、じゃあ何で居ないんだよ」
「京に新海さんより優先する事なんてあんのか!?」

そりゃあクラスも寮の部屋も別になった事がないが、僅かな時間でも一緒に居ないだけでケンカを疑われるのかと千草は不思議に思う。

「バスケ部のミーティングに行っただけだよ。助っ人に呼ばれたらしいから」

落ち着いた声色で静かに発せられる言葉はにぎやかな食堂では紛れてしまいそうだが、周りは聞き逃すまいと耳を傾ける。

「面白がって煽るな」

誠への軽い抗議で声に感情がわずかにでも滲んだだけで、その場の空気がまるで千草が本気でキレたかの様になる。
人と喋ると時折こういう事態になる事を、千草は自分のコミュニケーション能力が無いせいだと思っている。
実際は周りが気を使い、千草の意思を重く捉え過ぎているのが原因なのだが。

「ただーいまっ!」

声と同時に、気付けば背後から腕が巻きついている。
京の席を確保していた意識は千草には無いが、隣接する席に座る勇気のある者が居ないので、結果的に指定席に彼がおさまる。

「おぅ、早かったな」
「とりあえず挨拶だけっていうか。まずは懇親会…って感じ?」

誠とは一回ラリーしただけで、早くも視線は千草に固定される。
テーブルに肘をついて顔を覗き込むから、千草がきゅっと眉を寄せて不満を表すと、嬉しそうににっこりと微笑む。
それがまた腹立たしいのだが、口から出たのはそれとは違った。

「お昼は?まだ?食べた?」
「一応ランチミーティングってかたちだったから食ってきたよ。千草は?今日も洋定食かぁ。おいし?俺があーんしてあげよっか?」

デレデレと甘く崩れる京は、無視されても折れないどころかむしろしつこく食い下がる。

「可愛いねぇ。千草は存在してるだけで可愛い!奇跡だね!」

こういう時の誠は我関せずか面白がるかだが、里久は恥ずかしがって顔をそむけている。

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あきゅろす。
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