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Lovely Prince

「まだうろうろしてますから、少し上で時間を潰していきます?」

友人達はさすがにそれはまずいと口を出したが、食堂に居るとしても窓から見つかってしまうし、様子を見るのも上からの方がみつかりにくいと言われるとその通りだった。
彼らが親切で言ってくれてると感じたので、千草はそれに甘える事にした。

上階へ案内されて、庭園で会う彼の部屋を訪ねると、同室の生徒は「まずいんじゃ」と慌てた。
悪い事をするわけじゃないと説明する彼らを、千草はありがたいと思って見た。

「どうぞ」と言いながらも本当にいいのかという不安が滲み、皆揃って落ち着きがない。
千草を見つけて騒ぎ、廊下に次々と生徒達が集まってきているので、早く部屋へ入ってもらいたい気持ちもわかるが、千草はその前にきちんと言葉にした。

「ありがとう」

そこにはほのかな笑みが咲いていて、知らず少年達を魅了した。

「親切にしてくれるのは嬉しいけど、あまり気を使わないで」

そんな訳にいかない。
失礼があったら責められるのは目に見えてるし、下心を出せば集中砲火は必至。
気を使うのは当然だ。
だから庶民の家へ高貴な人を招く様に、腰を低くして恐る恐るになるのも仕方ない。
とんでもない!と言わんばかりに、ぶんぶんと首を振るのを見て、千草は困ったようにきゅっと眉を寄せた。

「心配しないで。単に気に入らないからって、人を陥れるような卑怯なマネはしないから」

冗談めかして、本音をこぼす。
それを真面目に受け取った生徒達は、勿論です。そんな事するわけがないです。と興奮気味に頷いた。


一人ずつに個室が与えられているわけじゃない部屋は、高等部に比べて明らかに狭い。
そこに四、五人居るものだから余計に息苦しい。
千草に座ってもらうのも、ベッドではなく机の方にしたのは気遣いの一つだ。

彼らは窓から覗いて中学生が居なくなったか頻繁に見て、姿が見えなくなるとわざわざ一階まで下りて何処かに隠れてないか確認した。
後輩に世話をかけているだけで申し訳ないのに、退屈だなんて言えるわけもなく、眠ってしまうなんてもっての他だ。
しかし気を使ってくれる彼らは気軽に話し相手にもなってくれず、待ちくたびれた千草は机でうとうとしはじめた。

「ダメだ、ねむいぃ……」

眠気と闘って口調がたどたどしくなっている千草には、最早眠い事を隠す気遣いは残っていない。
更には緊張感や警戒心がゆるみ、心の声が駄々漏れになっている。

「寝ちゃダメだぁ。約束したのに。気をつけなさいって京に怒られる……」

眠くてうだうだ言うのもそうだが、恋人に叱られるというのも意外な一面で、興味深く観察してしまう。

「……あの、京さん呼んできましょうか?」

その案が出ると、そうだそれがいい!と皆賛同して部屋を出ていった。
やはり学園の不可侵の華を恋人に無断で連れ込んでるのは誤解を生むし、いくら助けるためとはいえまずいと思っていたのだ。

千草が机に突っ伏して睡魔に負けた頃、ようやく恋人が迎えに来て皆ほっとした。

「千草」

肩に手を乗せ、そっと囁かれる声は甘い。

「千草、迎えに来たから。帰ろう」

優しく肩を揺すると、甘えた声が小さく漏れる。

「身を守る行動に出たのは、進歩だね」

身動ぐ千草を眺め、京はそう独り言ちた。
それに協力者の選択も間違っていなかった。
京は嬉しくて、さらさらと流れる黒髪を撫でた。

「ほら、起きないと抱えてく事になるけど?」
「んー、やだぁ……」

睡魔に羞恥心が勝った瞬間だった。
抱き抱えられて歩かれるのが余程恥ずかしいらしい。
ゆらりと体を起こし、幼い仕草で目を擦る。

「さっ、帰ろう」
「ん」

一旦眠ったので、今何処に居るのか把握するまでまだ頭が働いてない。
帰ろうと言われて取り敢えず手をのばし、引っ張って立たせてもらう。
その勢いで恋人の胸にぱふっと抱きつき、ふっと笑みが溢れる。

「帰る」

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あきゅろす。
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