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Lovely Prince

中学生と別れて寮へと歩いているその背に、不意に声がかかった。

「新海先輩!」

少年は、嬉しそうに微笑んでいる。
思い出したくない人物がそこに居た。

「監視が厳しくて、困ってるんでしょ?周りの人まで味方につけて先輩を囲いこむなんて」

言ってる意味が、わからない。

「先輩くらいになると、京先輩でも繋ぎ止めておくのに必死なんですね」

沈黙を都合よく解釈し、侮辱の言葉をにこやかに吐く。
己の理想通りにストーリーを構築し正当化するやり方は身勝手で、突飛なその発想には毎回戸惑う。
混乱して、対応できず、翻弄される。

「周りの目もありますから堂々とはできませんけど、僕は秘密を守れます」

自信に満ちた態度で囁く。
それはつまり、京に内緒で相手になってやってもいい。という事か。
信じられないと呆れ、相手をするのも不快だと怒り、無言でその場を立ち去った。


怒気を全身から溢れさせ、足取りも穏やかではない。
ぷりぷり怒って帰ってきた千草をリビングのソファーで迎えた京は、やはり中学生に何かされたかと予想した。
が、第一声は意外なものだった。

「俺が浮気をすると思うか!?」

憤慨する千草を何処かで楽しみながら、その問いには冷静に答える。

「あり得ないだろ」

千草の心が強くなり、いつか京の手を必要としなくなった時。
その心が京から離れてしまう事は考えられても、京に心を繋げたまま他へも心を移すような事はしないと信じている。

あまりに自然に、さらりと言われたから、安堵や嬉しさが千草の刺々しい感情を軟化させた。

「確かに、無防備で隙があるとは言われるけど…!だからって浮気をして平気なわけがないだろ!?」

涙ぐみながら怒る千草へ手をのばし、京は優しく隣へ導いた。
何があったか聞く前に落ち着かせてやりたかったから、肩を抱いて慰めた。

「千草のことは疑ってないよ。俺が心配なのは、何だかんだ言い訳をつけて千草にちょっかいを出される事だ」

正に今、何だかんだ言い訳をつけてちょっかいを出されている。
千草は京に全部報告して、気をつけると約束した。


次の相談会では中等部まで行くのを警戒して、高等部に近い庭園の東屋に集まった。
その帰り、後をついてくる足音を察知して恐くなり、念のため咄嗟に高等部の一年の寮に隠れた。
校舎ならまだしも、中学生が高等部の寮へは入ってこられないだろうと踏んだのだ。

続々と帰ってくる一年生は、入口で小さく座りこんでいる千草にぎょっとして通り過ぎていく。
誰も話しかける事ができないまま、何故ここに?という疑問を抱いたまま離れる。

そっと窺うと外には例の中学生がうろうろしていて、出ていけずに困って溜息をつく。
ここら辺で見失ったから寮へ入ったのではないかとあやしんでいるのだろうが、彼もまた帰ってくる一年生達に何をしているのかとあやしまれている。
千草に話しかける勇者が現れたのはその時だ。

「なっ、何してるんですか?」

気付かれたらまずい。
千草は焦ってしぃっ!と人差し指を立てた。
咄嗟に外を窺ったそれで察した聡い彼は、庭園でよく会う彼で、言われると素早く身を屈めて近寄った。
共に居た友人達は彼が話しかけただけでもヒヤッとしたのに、その行動に従いながらも秩序を乱した事を責められやしないかとドキドキした。

「追われてるんですか?」

小声で聞くと、千草はこくりと頷いた。

「追い払ってきましょうか?」
「ダメだ。多分、障害だと思うだろうから」
「障害?」

少年の友人達も、意味がわからないと互いに顔を見合わせた。

彼のように思い込んで突っ走るタイプは恐らく、邪魔される事で更に執着したり凶暴化したりする。

「大変なんですねぇ」

事情を聞いて、少年はしみじみと呟いた。

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あきゅろす。
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