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Lovely Prince

一旦落ち着こうと、途中庭園に身を隠す。
生垣に囲まれてひっそりあるガーデンテーブルには、ここでよく見る先客が居た。
彼は千草に気付くとサッと立ち上がり、どうぞと席を譲った。

「でも……」

後から来ておいて後輩から横取りするのが嫌だったので、彼もそのままいてもらった。
そうしてやっとホッとして長い溜息をつくと、後輩は話しかけていいものか悩んでそわそわする。
しかし千草が頬杖をついて物憂げなところを見たらタイミングを逸してしまい、後輩にとって気まずい沈黙が訪れた。
けれどそれも恋人の登場によって終わりを告げ、助かったような残念なような複雑な気持ちになった。

沈んでいる千草も、それを前にして困った様子の後輩もぱっと見て察した京は、苦笑して後輩に「悪かったな」と目配せした。
彼は会釈だけして席を立った。

「千草」

迎えに来た恋人に腕を伸ばすのを振り返りながら確認して、後輩は安心した。
首を戻したら、そこに居た人とぶつかった。

「ゴメン!」

敬語ではなかったのは、制服が中学生のものだったからだ。
そしてふと疑問がわく。
高等部にはお気に入りの先輩目当てによく中学生が遊びに来るが、あまり人の来ない庭園に、それも一人で来る事に違和感を覚えたのだ。
そして、その真っ直ぐな視線を見て気付く。

彼は、新海千草を見るために来たのだ。
その思い詰めたような表情が、一年生は心配になった。


交流会で知り合った中学生達や、彼らを介して会った生徒達の悩み相談を千草は受けていた。
中等部の校舎の食堂で、半円状に並んだ少年達の視線を集めている。
彼らは彼らなりに何度も話し合い、「冷静な議論によって先輩への理解を深めた」らしい。
その成果か、相談に集まった生徒は皆真剣で、冷やかしや不純な動機と判断されると廃除されていた。

相談にのってと言われた時、最初にあやしんだのは京で、本当に信用できるか疑った。
千草も自分なんかが人の悩みを聞いて偉そうにアドバイスできる立場じゃないと思ったし、やっぱり疑わしくて断ったのだが、結局どうしてもと頼まれて折れたのだ。

千草は、申し訳ない思いでいっぱいになった。
恋愛の相談をされてもどうしたらいいなんてアドバイスはできないし、進路についてなんて千草自身も悩んでるのに。
けれども一度引き受けたからには、自分にできる限りで答えるべきだと思うのだ。

「男同士だからって、やましく思う必要はないと思う。他人に非難される筋合いはない。……と思うのは勝手かな?」

きゅっと、眉を寄せて苦笑する相貌に、少年達は見入った。

「けれど俺は、そう思う。問題は、二人の事だって」

いくら反対されたって、非難されたって、京と離れる事はできない。
二人が互いに想いあい、必要としあっているのに、離れる理由などないと。

「まだ中学生なんだから、進路は先生と相談しながらゆっくり考えればいいと思うよ」

千草が正直に「俺もまだわからないんだから」と言うと、意外だという驚きが返ってきた。

「京先輩と一緒のトコに進学するんじゃないんですか!?」
「勿論、京と一緒には居たいと思うけど、“何をして”そこに居るかが問題だろう?」

時折少年達の顔を見やるだけで、その視線は何処でもなく中空へ投げられる。

「俺は京と違って自分の事もろくにできないから。ついていけるか不安なくらいだよ」

会社を任せてもらえるようになれるかはわからないけど、父親の会社のためにやれる事をしたい。と、京は言った。
だから大学へもそのために役立つところへ行きたいと考えている。
それを聞かされた時、単に一緒に居たいからついていくだけではダメだと思ったのだ。
釣り合うようにと言ったら叱られたが、やっぱり京と居て恥ずかしくない自分でありたい。
今は京に支えてもらうばかりだが、いつかは自分が支えてあげられるくらいになりたいと思う。

二人の関係性が垣間見えて、中学生達は微笑ましく、または羨ましく思った。

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あきゅろす。
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