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Lovely Prince
第二十三話 君の為なら強くなれる
人里離れた全寮制の男子校という閉鎖的な世界では、容貌の整った者が重宝される。
同性愛者でなくとも、思春期に一時的に同性に興味を抱く経験とも無縁であっても。
それは憧憬の的として。または目をかけて可愛がる弟の様な存在として。
生理的な欲求や暴力的な衝動のはけ口でもなく。
異性が居ない中で、美しいものはそれだけで人を惹き付ける。

里久は百六十センチ後半と同級生より少し低めの身長で、顔立ちも幼さが残る可愛らしいタイプだ。
知らない生徒にも親切にしてもらったり、愛想よくしてくれたりと、得だと感じる事はいくらかある。
ただ、こちらのコンディションや相手の距離感次第では時に迷惑な場合もある。
そういう時、里久は構わずハッキリと嫌なものは嫌。不快だ、迷惑だと主張して自分を守る。
嫌がる反応を見て面白がられるのはゴメンだ。
変に空気を読んでおとなしくしていると、損するのは自分だ。

感受性が強く繊細で、儚くも美しい心を持つ千草に比べて図太く可愛いげがないと里久は自分で思う。
けれど千草はそんな里久を可愛いと言ってくれる。
見た目の事ではなくそれは素直さや健気さからで、その慣れない評価に里久はいつも戸惑い照れてしまう。
そう言葉にして人を褒められる千草の方こそ、本当に素直で尊いと里久は思う。

里久がこの学園に来る以前は、千草は京と誠くらいしか親しくしていなかった。
暗黙の内に不可侵の華となった千草に、無謀にも京のガードを越えてまで手を出す者は居なかったから、絡まれた時の対処は里久の方が上手である。
大きな傷を抱き、より強引で質の悪い手で迫られる事を差し引いたって、そもそも人との基本的なコミュニケーション能力の時点で既に差が見える。


廊下で話しているその二人を、通りすぎ様に生徒達が盗み見る。
そしてその多くが驚きで目を丸くした。
壁に寄り掛かる千草の頭の横に手をついて話す京にいつもの陽気さは無く、滅多に見られない真剣な表情があった。
けれどそこには優しさが滲み、やわらかな空気が満ちている。
対する千草にはふわりとかすかな笑みが見えて、いつもとは逆な印象になっていた。

誰かが、そのどちらかにとって変わる事などあり得ない。
二人に近い者ほどそう強く知る。
けれど、隙をついて手を出してしまった少年は、偶然にも運よく一度近付けてしまっただけに、自身を特別だと勘違いし始めた。

少しは“その気”があったから、自分に唇を許してくれたんじゃないか。
ならば望みはあるだろうと、大それた野望を抱く。
きっかけはこちらから作るべきだろうと思った少年は、図書館で待って話しかけた。


中学生に親しげに話しかけられて、千草は戸惑った。
中等部で一度会ったと言われても困る。
いちいち皆の顔を覚えてるわけじゃないのだ。
正直ちょっと気味悪さを感じて引いてしまい、冷ややかな視線を投げると、少年は瞠目した。
こんなはずじゃないとでも思ったのだろうか。
が、少年の次のセリフで動揺は千草に移った。

「覚えてませんか?ほら、僕達……」

言いながら顔をぐっと寄せられ、背中にぞわりと恐怖がはしる。
ハッとしたのを見て千草が思い出したと確信した少年は、満足げににっこりと笑った。
千草にはそれが不気味に映り、恐くなって足早に図書館を後にした。

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あきゅろす。
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