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Lovely Prince

放課後、人が減っていく教室で、千草は苦しい状況に陥っていた。

アルコールが入って少し高揚していたとはいえ、動揺して京を困らせてしまった事を気にしていたのは確かだ。
そのせいで午後の授業はあまり集中できなかったし、体育の時なんて焦り過ぎて何も考えず勝手に京より先に更衣室に行ってしまった。

目の前に立つ千草を、京は頬杖をつきながら半眼で見つめた。

「確かに、俺は嫉妬しますよ。心が狭いとか余裕が無いからだとか誠にバカにされるくらい気にしますよ。束縛って言われても反論はしませんよ」

卑屈にも聞こえる言い方をするのもそうだが、千草を責める言い方が珍しくて、里久は心配しながら少し距離をとって二人を見ていた。

「だけど千草は今まで俺の我儘をずっと聞いてくれてたし、実際何度も危ない目にあって最近はわかってくれてるかと思ってたのに……」

返す言葉も無い千草は、項垂れてじっとお叱りを受けている。

「二クラス合同だから、当然更衣室でも別のクラスと一緒だってわかるよな?」
「……はい」
「いや……。千草を止めなかった俺が悪いんだよ。嫌なら千草を止めればよかったんだ。だけどまだ昼休みの事を気にしてるみたいだったから、少し離れた方が……って思ったから……。すぐには気付かなかったんだ。それが悪いんだ……」

責めている途中で京は机に突っ伏し、ぶつぶつと反省し始めた。

「だけどまさか俺が居ないのをいいことにあんなに千草に群がってべたべた触るとは思わなかったー!」
「ご、ごめん!ぼーっとしてて、先に着替えちゃってた」

最近は京と付き合ってるというのも、好奇心から発生するいい加減な噂話ではなく本当だと認識されていると思っていたのに。
それでも隙を突いて千草にちょっかいを出したがる奴は居るらしい。

皆が皆男を好きになるとは思わないし、たまたま千草を好きになるとも思わないが、軽い興味やおふざけの接触であっても中には少なからず下心を抱いている奴が居るかもしれないし、単純に欲求を持て余してる奴だって居るかもしれない。
そんな中で恋人がべたべたと触られるのを見るのは決して快くはない。

「京が嫌がる事をして、反省してる……」

千草は警戒して自分の身を守るというよりも、京が不快に思う事はしないという方を重視している。
それは恐らく人の関心よりも、圧倒的に京を重視し、京を中心に考えているからだ。
もしかしたら自分自身の事より、ずっと。

「ごめん。千草のせいにして。俺が悪いのに……」
「ううん」

京はいつだって、千草は悪くないと言って罪を全部背負ってくれる。

「ありがとう。心配してくれて」

京は千草の手をとると、そっと指先に口づけた。
千草は照れて顔をそらし、さっと手を引っ込めた。


里久はたまに、誠が「京はよくここまで耐えて待ってたよな」と感心するのを聞く。
千草がこんなに感情を見せるようになるとは思わなかったそうだ。

心が壊れる前の千草を知っている京にとって、再会した後の千草の変わりようはショックだったろうに、京はずっと名乗りもせずにそばに居たのだ。
好きならすぐに名乗って付き合いたいと思うだろうに、京はそれよりも千草の心が癒えるのを優先した。
そしてそれを誰にも漏らさなかったのだ。
今思えば誰かの口から千草に伝わる事を懸念してだろうが、それがどれほど苦しい事か。
けれどもそれはやはり、千草がどれほど酷い事件にあい、どれほど深い傷を負ったか。
結果、心が壊れてしまったのも京は見て知っているから。
だからこそ軽々しく口にできなかったのかもしれない。

無闇に触れて、壊してしまわないように。

千草が自分からそこに触れない限り、京からは触れないと決めていたのかもしれない。
千草がそれを忘れたいなら、傷ごと自分まで忘れられてしまったとしても構わなかったのかもしれない。

自分の気持ちを伝え、想いを成就させる事より、千草の幸せを望んだのだろう。
千草がそのまま触れなければ。
それを京に打ち明けなければ。
京は忘れられたままなのに。

京が誰だったか思い出されないまま、ふざけた友人で居続けたかもしれない。
千草の幸せのためならそうするべきだと、かつて黒川に言ったように。

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