Lovely Prince
3
「……千草?」
背を撫でて静かに呼ぶと、シャツを掴んだ手にぎゅっと力がこもる。
「怒ってる……?」
それとも泣かせてしまっただろうか。
「ふわふわして……。すごく、変だった……から…っ」
さすがに冷静になってきて、自分がした事を悔やんで反省しているのかもしれない。
それか中学生達がした事で傷付いているのかも。
「ごめん。俺が悪い。ちゃんと千草の事を考えてやるべきだったのに」
千草は、大きく首を振ってそれを否定した。
「何?」
じっとしがみついたままの千草に聞くと、少し震えた声がした。
「嫌わないで…っ」
「へっ?何が!嫌わないよ!何で千草を嫌いになるの。何にも嫌いになる理由は無いだろ?」
今の流れでどうやったら千草が嫌われると思うのか。
どう考えても嫌われるのは京の方だと思うが、千草にはそうならないらしい。
「だって、だって…っ。俺、変だった…!」
「うん。だからアレはあいつらが……」
「あんなの自分じゃないっ。少し変だったんだ…!ふわふわして、気が大きくなってたっていうか……」
千草は素直に甘えただけなのに、千草が何をもって京の機嫌を損ねたと思ってるのか京にはわからなかった。
千草のせいじゃないからと安心させようとしても、恐がって聞かない。
「千草。……どうしたの?嫌わないし、怒らないから、聞かせてみて。ね?」
優しく背を撫でて語りかけると、千草はひくりと一つしゃくりあげて少し顔を見せた。
涙ぐんで、声も泣きそうに震えている。
「京が優しくしてくれて、嬉しくなって…っ。変になってたから……、だから……我慢できなくて…っ」
京の頭上にハテナが浮かぶ。
「いつもはちゃんと我慢してるんだ!なのにあんなに我儘…!」
「待って待って!あの、我儘……って?」
まさか。と思いつつ、京もドキドキしてきた。
「だって、京は俺の願いを聞いてくれて、いっぱい優しくしてくれて、幸せにしてくれて……」
「いや……。そんなの我儘って言わないだろ……」
気が抜けてつい呆れた声を出してしまったが、京は千草に照れさせられていた。
「だって俺が我儘に好き放題したから、京は呆れて嫌いになるかもって…っ」
「千草は、あれが我儘で好き放題なの……?」
こくりと頷いて、ぎゅっとしがみつく千草を撫でる。
「バカだな……」
また、胸元でひくりとしゃくりあげる。
「あれでどうして嫌いになると思うかな……。千草に甘えられて俺が鬱陶しいと思うと思った?負担に感じて、嫌になると思った?それとも『こんなのいつもの千草じゃない』って失望するとでも思った?」
涙を溜めた千草は何も言わず、ぐっと唇を噛んでいた。
きっとそう思って恐くなったのだろう。
「いつ、そう思ったの?」
「京にキスされた時……。びっくりして、急にどうしようって気付いた……」
「そうか」
正直可愛すぎて、何て言ったらいいかフォローの言葉も浮かばない。
今ここでキスしてもいいが、きっとまだ自分がただ甘えて恋人を喜ばせただけだと気付いてないだろうから、そこを理解してもらわないと混乱を招くかもしれない。
「例えば。俺が今よりもっと千草に優しくして、甘やかして、思いっきり大事にしたら千草はどう思う?やっぱり鬱陶しい?失望する?」
「違うっ。嬉しい」
「なら、どうして俺が千草を嫌いになると思うの?俺だって千草に甘えられたら浮かれるし、幸せになるのに」
千草はハッとして見上げた。
「ね?千草はただ甘えただけじゃないか。確かに恥ずかしがる千草は可愛いけど、それが俺に嫌われると恐がって我慢してたんだとしたら、俺は胸が痛いよ」
「ちがっ、違う…!いつもは本当に恥ずかしくて、思った通りできないだけで…っ。さっきは、わからないけど……。多分、俺も幸せ過ぎたから、それだけ京にとんでもない負担をかけたって咄嗟に思っちゃったのかも…!だから…!」
可愛い事を、千草は必死で訴えているのをわかっているのだろうか。
しかし嬉しいから指摘せずに先を促してしまう。
「だから?」
「だから、京には『可愛い』って言ってほしいし、もっと……その、甘えさせてほしい。俺が恥ずかしさに耐えられれば、だけど……」
やはり、あの中学生達は許す事にしよう。
「可愛い。千草。可愛すぎる」
外では我慢しようと思ったが、この愛しさを抑えきれなかった。
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