Lovely Prince
2
確かに、千草は混乱したり取り乱した時でないと人前で自ら甘えたり感情的になったりはしない。
その点中学生の作戦は成功だったかもしれないが、今回のは京にとって気に入らないものだった。
千草は京の腕に絡みつくと、気だるげに肩に頭を乗せた。
甘えられるのは好きだし、京も面白がって人前で千草で遊ぶ事もある。
しかしそれはあくまで千草が謹み深く、抵抗して恥じらいを見せたりするからこそで、彼らが狙う“開放的”な事は求めていない。
千草は例え二人きりでも、触れる時は大抵少なからず照れているし、京はそんな千草が“可愛い”と思っているからだ。
開放的な千草が可愛くないというわけではない。
ただ、そんな千草を人の目にさらして喜ぶ趣味がないだけだ。
「京……」
千草はべったりと京に絡みつきながら、そのシャツを引っ張る。
「ん?」
何だかんだで甘えられれば優しく応えてしまう京は、思いに反してついデレッとしてしまう。
「何か、変……」
千草は不安そうに京を見上げ、絡ませる腕に力をこめた。
「熱くて……ドキドキする…っ」
「少し酔ってるんだよ。チョコにお酒が入ってたからね」
その変化が恐いのか、千草はそれでも落ち着かないようだ。
「京。抱っこ……」
だめ?と甘えた視線に問いかけられると、断るわけにはいかない。
「いいよ。おいで」
後ろから抱き締められると千草は自分より少し大きな手をとり、両手で包んで胸元に引き寄せた。
タガが外れ、理性や自制心が本能に負けるとこうなるらしい。
これが二人きりならば千草をぎゅっと抱き締めて口づけたいところだが、ぐっと我慢してかわりに中学生達を睨む。
自分達で見たがっておいて、直視できないほど赤面している。
千草がこんなに素直に甘えるとは思わなかったのだろう。
ならば……と、千草にはいささか可哀想だが、京はこれを利用してやる事にした。
「千草」
京はわざと彼らを見ながら、千草にだけ聞こえるくらいの声でそっと耳元で囁いた。
千草はそれに素直に反応し、体をずらして京を見上げる。
「撫でてあげようか?」
すると千草は嬉しそうに、にっこりと微笑んで両手を開いて放した。
腕をまわして抱き締める様に頭を撫でると、ふっとかすかな笑いがその唇から漏れる。
チラッと見た中学生達は、照れて居心地が悪そうにそわそわしている。
京はそれでもまだ止めるつもりはない。
「嬉しい?」
返事のかわりに、空いている右手がまた包まれた。
何て可愛い事をするんだろう。
こんな千草を人に見られているのがもったいなくて、早く帰って一人占めしたくなる。
「帰ったら、千草が好きなだけ、いっぱい撫でてあげる」
千草は京を見つめると、あごを上げて自分も耳元に唇を寄せた。
「約束、ね?」
「うん、いいよ。約束」
千草は手を放すと、振り返って京に正面から抱きついた。
「ああああああのぉっ!ごめんなさい!」
「僕達そろそろ戻りまぁす!」
京はそのまま肩越しにニヤリと笑いながら、そう?ととぼけてその三人を見た。
「ファンだから、千草の本当の顔を見たかったんじゃないの?残念。まだ何もしてないのに。ねぇ?千草?」
「……んぅ?」
千草はもう中学生達の存在を意識に入れていないのか、京だけを真っ直ぐ見つめ、不思議そうに首を傾げた。
京はくすっと笑ってしまい、感じた事がそのまま口から溢れてしまった。
「可愛い」
照れて目を伏せた千草は、京の胸に擦り寄って顔を隠した。
それもまた可愛くて、髪を撫でながら身を屈めて首筋に軽くキスをする。
一瞬、唇が軽く触れた程度なのだが、千草はぴくりと反応して身動いだ。
「あぁ、ぃやぁだ…っ」
「ごめん。外じゃ嫌だよな」
帰ろうとそそくさと立ち上がる彼らに聞こえるようにわざとそう言ったのに、千草は口ごもって胸に顔を埋めた。
またてっきり狼狽えて反論するかと思ったのに、これは京も少し驚いた。
しかし中学生達にはこれが利いたようで、一斉に走って帰って行った。
腹が立ったからとはいえ、こんな事をして千草を怒らせたか、悲しませたか。
終わってから罪悪感を抱き反省する。
「ごめんな。千草」
首を振る千草は顔を埋めたままだから、京のした事をどう感じたかわからない。
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