Lovely Prince
第二十二話 一心同体
急いで食事を終わらせて中等部から駆けつけた生徒達が高等部の食堂の周りに集まるのは、最早この学園の伝統と言ってもいい。
それが二年では京と千草に集中しているのも、この学年では常識と化している。
千草にお詫びをしたいという中学生と会うことにしたのも昼休みで、見張りのためかただの付き添いか三人以外にも一緒に来ていた。
京と千草の二人に会う時に毎回中学生達が気にするのは、体調を含めた千草のご機嫌だ。
京と話す時以外は感情が見えないものだから、何もしてなくても怒ってないかとドキドキしてしまうのだ。
しかし今回は実際に怒らせる事をしているので、その罪悪感も緊張感もはるかに大きい。
ただ、京がいつも通りのフレンドリーな空気で、にこやかに接してくれた事が彼らの救いになった。
三人が謝ってお詫びの品を献上すると、京は半分冗談で怪しんだ。
「手作りお菓子?変なもの入ってないだろうな」
「入ってませんよ!ちゃんと市販のチョコを使いましたっ」
チョコと聞いて、千草は内心ドキッとした。
千草自身も以前手作りチョコを京にプレゼントしているので、思い出して恥ずかしくなったのだ。
「食べてください!」
「今?」
是非にと言われて頷くと、当然の様に京が箱を開けてそれを千草の口に運ぶ。
それだけで中学生は肩を押し合って、くすくすと照れて笑った。
「どう?おいし?」
顔を覗き込む京をじっと見上げながら、もぐもぐと口を動かす。
不思議そうに首を傾げているのが気になって京も食べてみると、口にした途端むせた。
「これ…っ!お前ら!洋酒入りの使ったろ!?」
「あー、バレましたー?」
確かに市販のチョコではあるだろうが、それにしては酒の味が濃すぎる。
「お前ら自分で味見したのか!?絶対してないだろ!?」
「そりゃあしてませんよ。僕達真面目ですもん」
「どんなチョコ使ったんだよ!マッズ!」
ひど〜い。と傷付いてみせるが、それはこっちのセリフだ。
チョコレートボンボンを沢山使って、より酒の濃度を高くして作ったらしい。
「何が真面目だよ!これ酔うわ!千草、大丈夫か?」
「……苦い」
きゅっと眉間にシワをつくり、控えめにゆるゆると首を振る。
よく我慢できたな。と心配した京は、千草の口元に顔を寄せてみた。
それがキスしているかのように見えて、中学生達はわあわあはしゃいだ。
「酒くっさ!」
謝りたいと言われたから受け入れて来たのに、それがこの仕打ちだ。
少しくらい怒っても許されるだろうに、千草は彼らに何も言わない。
京は心底呆れて、溜息まじりに三人を冷たく見やった。
「ったく……。本当、何がしたいんだ……」
京は隣におとなしく座っている千草の腰に手を回すと、守る様に抱き寄せて肩を抱いた。
それは彼らの仕打ちにショックを受けたんじゃないかと心配してだが、三人は反省した素振りもなくにこにこと千草の様子を窺っている。
一体何を期待しているのか知らないが、これが謝る態度か。これで許されると思っているのか。
千草が怒らないから、千草が恐がるから我慢していたのに、こうも重なると我慢ならない。
「だって、酔うと笑い上戸とか泣き上戸になる人が居るって言うじゃないですか〜」
「京先輩は新海先輩を“可愛い”って言ってるから、だったら僕達だって見たいなぁって思って」
「僕達は新海先輩の笑ってるところとか、感情的なところは見られないから。だから、ねー?」
酔っ払ったら開放的になって、京に見せるような顔も見せてくれると思ったのだ。
千草への思いがまた変な方向に暴走した結果だ。
「ファン心理か……」
それが免罪符になるわけでは、まったくない。
けれど嫌悪感や悪意をぶつけられないだけ随分マシだ。
千草は敏感に感じ取って、より酷く傷付いてしまうから。
冷静で大人な対応をしていて偉いな。と、千草をふと見た京はハッとしてそのあごを掴んで顔を上げさせた。
「千草?」
頬は僅かに紅潮して、視線はぼんやりと揺らいでいる。
京はひくりと片頬でひきつった笑みを浮かべると、三人を睨み付けた。
「お前らのせいで千草が酔ってんだろ!」
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