[携帯モード] [URL送信]

Lovely Prince

何年生か知らないが、まだ幼さの残る声色で凄まれている里久はその内容に呆れていた。

「高校からウチに入ってきたくせに、図々しいよね」
「空気読まずにウチのルールぶち壊してさぁ。何も知らないんだったらおとなしくしとけって!」
「ホンット無神経。誠先輩が優しくて、京先輩も許してくれてるからって調子ノリ過ぎ!友達ヅラして偉そうにさ!」

実際に千草とは自然に友達になったし、それをひけらかして誰かを見下した事も一度も無い。
まったくの言い掛かりで、迷惑な話だ。

「お前が居るから悪いんだろ!わかってんのかよ!?」
「新海先輩は“あんな”じゃなかったのに、お前が悪い影響を与えたに決まってんだよ!」

彼らは、千草が以前より悪い方向へ変わってしまったと感じているらしい。
そしてそれが外部から来た里久のせいだと思っている。
里久は勝手な口実で責められた事より、千草が誤解されている事の方に怒りを覚えた。

「ぶりっこしたって気持ち悪いだけだから」
「何でこんな性格悪いのを近づけたんだろ?」

カッコイイ王子様と思いたいならそれは自由だし、そんな憧れの人に馴れ馴れしくしてほしくないと思うのも自由だ。
けど、千草が好きなら、傷が癒えてきて京とも幸せそうな姿を素直に喜んでほしかった。
ましてその幸せを阻害するような事なんて……。

「きっと新海先輩も気づいてないんだよ。じゃなきゃこんな人に好きで影響されるわけないもん」
「だよね。かわいそう……」
「そうだよ。この前図書館で会った時に、僕心配だから聞いてみたんだ」

一体、千草に何をしたのか。
傷付く事をしたんじゃないか心配なのはこっちの方だ。

「やっぱりこの人に悪い影響を受けちゃってる事がわかってなかったみたいだったよ」

聞いている友達の二人は「やっぱり」と納得して、千草に同情した。

「わかってないのはそっちじゃないか」

怒りを煽るのは予想できたけど、黙っていられなかった。
案の定。
ぎゃあぎゃあと勝手な反論が叫ばれる。

「こりゃまた大変なところにお邪魔したようで」

事態を楽しむようにのんきな声が背後からして、里久はその顔を浮かべながら振り返った。

「一人で誘われてったみたいだから、中学生とどんだけ仲良しになったかと思ったら……」

やれやれと首を振る誠の顔を見た中学生達は、三人とも蒼白だ。
言いつけて事を大きくする気はなかったし、京と千草にはもっと知らせるつもりはなかったのに、二人までやって来てしまって里久も焦った。

「誠。あのっ、違うんだよ。ちょっと誤解があっただけで…!ねっ?」

里久が中学生達に同意を求めたのは、彼らを庇うためなんかじゃない。
千草が聞いたらきっと傷付くだろうから、聞かせたくなかっただけだ。
しかし憎たらしい里久に庇ってもらった事が我慢ならない三人は、素直にその好意に甘えるつもりはなかった。
“ぶりっこ”と里久を非難して貶した本人が甘えた声を出し、必死に言い訳をして媚びている。

「違うんですぅ。僕達、新海先輩のファンでぇ」
「先輩のお友達にお話を聞いてみたくってぇ〜」
「そしたら僕達が何か誤解してたみたいで、怒らせちゃったんですぅ」

里久自身が争うのを望まなかったから、誠と京は目配せしてその場ではごまかされた振りをした。

「そう。じゃあ、君達も一緒にあっちで話に交ざる?」

うまくいったと思って安心した三人は、誠の誘いにはしゃいで乗った。

「この前の交流会で仲良くなった子達なんだけど。お庭で仲良くお話よ。もしかしたら同級生かな?」

広い芝の庭に座って集まっていた生徒の中には、自分の目で千草を観察して真実を見た者も居るし、京に叱られてそれを見せられた者も居る。
誠は近くで京と千草を見ていれば何か気付くだろうと考えただけだが、目配せでそれを悟った京もその考えに納得した。

待っていた中学生に千草達と中学生三人が合流すると、一瞬ピリッとした空気が走った。
問題の三人が他の中学生達に無言の威圧感を与えたからだ。
恐らく抜け駆けしたのが気に入らなかったのだろう。

里久は呆れるだけだったが、京と誠は気付かない振りをして明るくその場を盛り上げた。
京は黒川からこっそり何があったか報告を受けていたから、これで問題が解決すればいいと思った。

[*前へ][次へ#]

6/20ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!