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Lovely Prince

ニッと悪い笑みを浮かべて目配せしてから、注文をとっている千草に背後からそっと近づく。
何も言わず、背中を指で下から上になぞると。

「ぅあぁっ」

びくんと肩をすくめた千草は、思わずペンを落としてしまった。
振り返ってくすくす笑う京を見ると、頬を染めてその肩をぱしん!と叩く。

「やめろよ!接客中なんだから」

千草は背中を見せないように警戒して、京が離れるのを待った。

「いいだろ。サービスだよ、サービス」
「何がサービスだ!ジャマするなよ」
「あ、ほら。注文は?ペンも拾って」

まだニヤニヤしているのが信用できず、京を押しやって距離をつくる。

「あっち行け」

仕事に戻る素振りを見せたことで安心した千草はやっとテーブルに向き直り、ペンを拾おうと視線を下ろした。
が、のびてきた両手がするりと腹部に絡みつく。

「『あっち行け』は酷いなぁ、千草〜」
「ちょ…っ」
「俺、傷付く〜」

その手がくすぐろうと動き出したら、ペンを拾うどころか持っていたメモも落とし、悪戯という拷問にケラケラと笑いだす。

「バカ…!あははっ」
「え?バカ?おかしいな。今、バカって言わなかった?」

周りもつられて笑ってしまい、笑い声が広がっていく。

「やめ…っ、くははっ。ごめん!ごめんって…!」
「え〜?何ぃ?」
「ごめんなさいごめんなさい!もう言わないからぁ!」

解放してもらった千草は滲んだ涙を拭いながら、息を切らしてテーブルに手をついた。
何故悪戯された自分が謝らねばならないのか?と、満足げな京に聞こえないように毒づく。

「くそっ。何で俺が……」

けれどしっかり聞いていた京は、「え?何て?」と意地悪く聞き直す。
千草はへらっと笑いながら、何でもないです!と必死に首を振った。

「よしっ。じゃ、仕事に戻って」
「……はい」

結局、遊ばれっぱなしの千草だった。


客寄せパンダの役割を果たして黒川を満足させる結果を出したものの、途中で遊ばれた千草は疲れてイスにだらりと座った。

「頑張った千草に、ご褒美だってさ」
「余ったやつだけど。手伝ってくれたお礼に」

京がプリンを持っているのを見ると、千草は甘えて「あ」と口を開けた。
あーんされて満足げな千草は、次も口を開けて「もっと」と催促する。

千草で遊んでいたとは思えないほど、京は優しく微笑んで嬉しそうに尽くしている。

「おいし?」

千草が頷くのを見て、よかったね。と京も頷いた。
そんな光景を目の当たりにした生徒は、その戸惑いを黒川にぶつけた。

「あの、二人っていつもこんななの?」

京が遊んで仲良くじゃれているのは食堂でも見られる光景だが、こうしてほのかに甘さが漂う穏やかな時間が流れるのはなかなか体感できない。

「んー……。二人きりなら“いつも”だろうけど。やっぱり人が居るとちょっと違うんじゃないかな」

いつも恋人同士の甘い雰囲気でいるわけじゃない。
仲のいい親友という空気の中に、たまに愛情を感じられるくらいだ。
それでも免疫の無いこの男子天国では、それがとても甘いものに映るのだ。


この日は二人とも早く帰ってAVルームでゆっくりしていたが、疲れのせいかその内カーペットにごろんと横になって眠ってしまった。
人が来てやっと目を覚ました千草は、幼げな仕草で両目を擦った。
出ていくべきか迷う生徒達と目が合っても、まだ意識がハッキリせずにぽやんとしている。

「けほっ」

夢の中に居ても小さな咳を聞き逃さなかった恋人は、ぴくりと反応して身動いだ。

「京。京、起きて」

揺すって起こされた京は、目覚めるなり千草に手をのばして抱き寄せた。
まだ二人とも眠気が残っているからなのか、だらだらと身を起こして部屋を出る。

「お邪魔〜」

京はふらふらしながらも千草の手を引いている。

「京、腹減ったー」
「うん、飯食いに行こ」


二人を見送った生徒達は、ホッと息を吐いた。
クスッと笑って顔を見合せて、共通の感想を一人がこぼす。

「仲いいなぁ」

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あきゅろす。
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