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Lovely Prince

絆創膏を貼ると、京はもう大丈夫だと千草の背中を押した。
が、千草はまだ甘えていたくて寂しそうに振り返る。
そんな千草が可愛くて京はふっと笑ったが、それ以上何も言わなかった。
すると千草はしゅんとして作業に戻っていった。


ずっと京が千草を好きでしつこく口説いていて、一方的にべたべたくっついて嫌がられたり、何かと世話を焼きたがったり……という印象が中学生達の中ではまだ強くあった。
京が千草に愛情を注ぎ、千草がそれを静かに受け止め、義務的に応えるイメージだ。
だが千草も京に甘えたり、頼ったりするんだというのが彼らには意外で、新鮮な事実だった。

明るくて楽しい、親しみのあるお兄さんの様な京と比べ、千草は格好いい王子様のように思われているため、そのギャップは大きい。

京が千草を「可愛い」と言う訳が今では周りも徐々にわかってきた。
冷たく動かない表情に、近寄りがたい硬質な雰囲気を纏っている王子様然とした千草から、明らかに変わってきている。
それは間違いなく京によって変わったものだ。

新海千草が可愛いなんて、いくらなんでも惚れた欲目。
そう思っていたのに、あんな幸せそうにふにゃりと笑う姿を見てしまえば。
そしてあんな甘え方をされてしまえば折れるのもわかるし、可愛がらずにいられないのかもしれない。

京がしている事は同じなのに今までよりも愛情に満ちて見えるのは、恐らくそんな千草の反応の違いのせいだ。
食堂で京に先に座ってろと言われたら、今までなら冷たく凍った表情でぼーっと待っていた。
しかし今はじっと京を目で追いかけ、トレイを運んでくるとふわりと笑う。
京にべたべた触られてふざけるな!鬱陶しい!ジャマだ!などと怒っていた人が、人前で…!と抗う事もなくなり、少し困ったように照れて身をかわす。
やんわりと手を放させて、時々視線を合わす。

こんな千草をずっと京だけが知っていたなら、京みたいになるのも納得だ。
けれど誰も京と同じくは出来ないし、そうなれない。
京でなければつとまらない。


演劇部のしぶとい勧誘と追跡から逃げ回り、結局文化祭では黒川のクラスの手伝いをする事で落ち着いた。

ギャルソン姿の千草に黒い猫耳のカチューシャを差し出した黒川の暴挙を、クラスメイトは恐る恐る見守った。
千草は怪訝な顔をして、意味がわからないと首を傾げる。

「皆のやる気アップと客へのサービスのためにも、語尾に『にゃ』をつける事を命じる」

更なる無茶な注文にぎょっとしたのはやはり周りの方で、千草が怒り出さないかハラハラした。
しかし千草は怒るどころか、京のシャツの袖を引っ張って泣きついた。

「結局黒川も俺をおもちゃにして遊んでるんだ!」
「ドレス着てお姫様やるよりマシだろ?これくらいやってもらわないとな」

それを聞いて、千草は後退る。

「まさか……。これをやらせる為にわざと演劇部の頼みを聞いたんじゃ……」

まさかそんな恐ろしい企みを……と疑惑の目で見ると、黒川はさぁね?ととぼけた。

「もぅいいっ。黒川はやっぱり意地悪だ!優しいと思ってたのに!やればいいんだろっ」
「語尾『にゃ』な」
「わかったよ!」

こんな扱いして大丈夫か?と思ったが、意外とやってくれるのが驚きだ。
は?と冷たく断られるか怒りそうなイメージが、見事に覆される。

「可愛いよ、千草」

恋人に励まされる千草は、むぅっと口を尖らせて拗ねている。


「いらっしゃいませ……にゃ」

感情の見えない表情で出迎えたあと、語尾を思い出してつけ足すと、その冷えた視線が揺らいで逃げた。
真っ赤な顔をした中学生は口を開けて立ち尽くし、千草は唇を噛んで羞恥に耐えた。

注文の品を運ぶ京が通りすがりにくすりと笑う。

「ほら、席に案内して」

千草は唇を尖らせて、何で俺だけ……と厄介な指令を恨んだ。


暇になった京は、普段交流の無い中学生のグループににこやかに話し掛けた。
中学生達の間に緊張が漂っていて可哀想に思ったからだ。
それは静かだった教室の雰囲気を良くして、和やかなものにさせていた。
会話を楽しんでいる間も京は千草の様子を確認していて、そちらにも自然に気を配っていた。
それを見ていた中学生が、嬉しそうに質問する。

「やっぱり、新海先輩のことが好きですか?」
「まぁね」

あっさり認めると、中学生達ははしゃいで「いーなー!」と羨んだ。
京は彼らの反応が可笑しくて、新しいおもちゃを見つけた気分になった。
そして千草に都合の悪いことに、サービスという立派な口実を得て京の悪戯なお遊び癖が顔を出す。

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あきゅろす。
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