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Lovely Prince

食堂で朝食をとっている時、京は思い出して声を漏らした。
首を傾げた千草が目で問うと、面倒臭そうに首を振る。

「今日図書館の手伝いだから持っていこうと思ってたのに、部屋に眼鏡忘れてきた」
「ん、じゃあ取ってくるよ」
「悪い。俺の机の上だから」

それは何気ない日常のやりとりだったが、千草が立って離れる時に二人の手がさらりと触れ合うのを目敏い周囲は見逃さなかった。
僅かな時間さえ離れるのを惜しむように、触れ合う指先がゆっくり離れる。
そこに二人の愛情を感じ、幸せな光景の余韻に浸る間も無く、あっと京の声があがる。

「マズイ!」

びくっとした周囲の目が集まるのも気にとまらないほど、京は今の選択を後悔していた。

「何?エロ本か?」
「机に出しっぱなしにでもしてるのか?」

誠と黒川にからかわれ、京はそれを一蹴した。

「バカ、違う。写真!」

京は箸を置くと、焦って立ち上がった。

「浮気相手のかぁ?」

あり得ないとわかっていてからかう誠に呆れ顔の京は、そのつまらない冗談を聞き流して部屋へ走った。
そんな京の背中を見て、本当に千草以外には興味がないんだなぁとしみじみ思ったのは誠達だけではない。


京が部屋に着くと、千草が机に向かいそれを手にして立っていた。
遅かったか……と、千草がパニックになるのも覚悟した京だったが、そっと呼んだ声に千草は意外にも冷静に反応した。

「あ、ごめん。これ……見ちゃった」
「……ううん。それは、千草のだよ」

京と千草の二家族が皆で写っているそれを、両親が京にタイミングをみて千草に渡しなさいと送ってくれたのだ。
千草が家族の写真を持っているとは聞いた事がなかったし、見たらパニックになるだろうと思っていたから渡せずに持っていた。

千草は訳を聞くと、ありがとうと言ってそれを大事に受け取った。


放課後、真面目に本の整理をしている千草の背後に忍び寄った京は、背伸びをして手を上げた瞬間脇腹を突っついてちょっかいを出した。
わあ!とびっくりして振り向いた千草は、京だとわかるとホッとして表情をゆるめる。

「何だよ。遊んでないでちゃんとやれよ」

照れながら押しやると、京は面白がってくすぐろうと両手を出して狙ってくる。

「やめろよ」
「やだ」

二人でケラケラ笑ってじゃれあうのを、まんまと図書委員の策略にハマりやって来た生徒達がちらちらと窺っていた。

「もうっ。仕事しろって」
「わかったよ」

引いたと見せかけてぱふっと抱き締めると、千草はふわふわと幸せそうな空気を振り撒いてにっこりと微笑んだ。
別人の様なその姿を目撃できた中学生は、年上の千草のことを思わず可愛いと思ってしまった。


京と離れて作業を続けていると、指にチクリと痛みがはしった。
古いテーブルのトゲが入ってしまったのかもしれない。
指の腹をぎゅっと押すと、ぷっくりと血が出てきて、千草は動揺して咄嗟にきょろきょろと京を探した。

「京は!?」

近くに居た生徒に聞き、彼が指した方へ急いだ。

「京!」

真っ直ぐに京のもとへ走ってきた千草に驚く生徒達は、何事だと振り返った。

「どうした?」

びっくりして反射的に肩を掴んで見つめ返した京は、答えを聞いてつい笑ってしまった。

「なぁんだ、トゲね」
「ねぇ、取って!」
「ん?どれ。おいで」

痛がる千草の手を引いて窓際に連れていくと、明るいところで指を見た。
京は血が出てるのを見て苦笑し、トゲが出ないかと指をぎゅっと押してみる。

「あーっ、痛いぃ」
「こら、暴れない」

涙声で訴えふるふると首を振り、恐がってじっとしない千草をぴしっと叱る。

「だって…っ、血ぃ出てるぅ」

京は千草にくるっと背を向けると、トゲが刺さった手を脇に挟んで固定した。

「ほら、あっち向いてろ。取ってやるから」

それは千草が暴れないようにでもあるが、千草に血が見えないようにという気遣いでもある。
トゲが取れると指を舐めてやり、ぽんぽんと背中を叩いて慰める。

「うん。血が出てびっくりしたんだね」

千草は恥ずかしそうに頬を染めながら、こくりと小さく頷いた。

「あ、あのぅ……。よかったら……」

様子を窺っていた中学生の一人が絆創膏をくれて、京はありがたくそれを貰った。

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