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Lovely Prince

大きく骨張った手で目元を覆い、重い溜息をつく。
それが苛立っているように見えて、千草は怖ず怖ずと名前を呼んだ。

「京……?」

何も言えずにいると、京は苦笑しながら千草の髪をさらりと撫でる。

「大丈夫。怒ってないよ」

すましていれば整った顔が際立つのに、京はいつだって明るくおどけ、楽しく笑って。人々を惹きつけていく。
身長や体格に恵まれ、運動神経だっていいのに、驕ってそれを鼻にかけたりしない。
そんな人柄がなおさら人を魅了するのだろう。
京は人に囲まれて、楽しい事の中心に居るのが似合う。
だからこそ、どうして自分なんかと居るのか?と千草はとても不思議になる。
放っておけば孤立するのが見えているから?
同情。善意。親切心で。
その真意はわからない。
好意を口にし、過剰なスキンシップをしていても、それが彼の楽しいおふざけのひとつに見える。
けれど京はずっと、二人の時はこうして心地いい空気をつくってくれた。不安や恐怖を取り払い、千草を助け続けてくれた。
そして、今も。
優しい温もりに手を包まれながら、千草はそっと上目でその素顔を覗いた。



「わぁ…!」

おとなしく座っていなさいと言われてからしばらくして。テーブルに出てきたのは希望通りのオムライスだ。
ふわふわの玉子がチキンライスの上に広がる。

「すごい……ありがとうっ」

珍しく無邪気にはしゃぐのを見て京は一瞬目を丸くしたが、照れ臭そうに目を細くした。

千草が刃物の扱いが下手だから必要に迫られて京がしているのではなく、好きでやっているのだと京は言う。
わざわざ買い出しをして自炊をしなくても食堂に行けばすむのだから、実際にそうなのだろう。
翌朝も京が朝食を用意したので、結局二人とも食堂に顔を出さないことが続いた。

おあずけを食らった分、熱心な者は休み時間にもこっそり教室に足を運んでいたが、今日は普段と少し質が違う。
京の方は相変わらずなノリで何かにつけて千草の世話を焼こうとしたり、用も無いのにあちこち触ろうとしている。
問題はそれを受ける千草の方だ。
普段なら眉を寄せてあからさまに嫌がって、睨んだり。ベタベタすれば抵抗を見せる。
それがわずかに軟化したように見受けられるのだ。
これにより千草の京への認識の変化、ひいては二人の仲の進展を疑う者達が探るような視線を送っていた。

昼にもなると少しずつ、だが確実にじわじわと伝播し、結局大多数の人間に「もしや遂に付き合い始めたのでは」という疑惑が浸透していった。
そうとは知らず一日振りに食堂に顔を出した千草は、いつも以上の騒めきと視線で迎えられた。
だが本人はそれを認識していない。


「千草は?何にする?」

里久が尋ねるが、千草はぼんやりとメニュー表を眺めている。

「千草、先に座ってろ。何がいい?持ってくから」

混んでるからと言われ、千草は素直に頷いた。


頬杖をつき、組んだ足をぷらぷらさせる。
その周囲には空席ができ、自然と京達の席を確保できる。
京が千草の隣に座り、その前に誠と里久が座った。

親子丼を食べ進めていた千草の耳に、ガリッという異物音が響いた。
途端に口内に鋭い痛みが走り、反射的にあいていた左手で口を覆う。
異物の不快感よりも痛みの方が上回っていて、食事中に口から吐き出すわけにもいかず、混乱して硬直するしかなかった。

「千草?」

正面の里久がその異変にいち早く気付き、続いて京と誠も気付く。

「どうした。気持ち悪いのか?」

京は箸を置いて千草の顔を覗き込んだ。
千草はふるふると小さく首を振ったが、それ以上説明しようがない。自分でも何が起きたかよくわかっていないのだ。
周囲が徐々にこの異変に気付いていく中、里久と誠はただ見ているしかない。
とにかくどうなってるのか把握しようと千草が舌を動かした途端、再び鋭い痛みが走る。

「んぅー…っ!」
「千草。見せてみ」

京が千草の手をはがそうとするが、顔を背けて嫌がる。
食べ物を咀嚼した口内を見せる事への抵抗はあるが、何より中がどうなっているのか知るのが怖かったからだ。

「千草っ、口を開けろ」

真剣なトーンで少し強めに言われても、千草は嫌がって逃げる。

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あきゅろす。
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