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Lovely Prince
第三話 京由嘉
眠りながら、何か温かいものに包まれている気がした。
それが心地よくて、この夢がいつまでも続けばいいのにと思うのに、目が覚めていくのがわかった。
もったいない。
そう思いながら、少しでも長くしがみついて居ようと目の前の温かさに擦り寄る。
頬でそれを感じ、微かに鼓動が耳に届いた。

意識がはっきりしてきても夢は消えない。
もしかしたらこれも夢なのかと思いながら、ゆっくりと目を開ける。
ゆるゆると瞬きをして、まだ頭が働かずにぼーっとする。
体を起こしてからやっと、自分が座って寝ていた事に気がついた。そして何にしがみついていたのかも。
“それ”からバッと手を離し、ぐるぐると思考しはじめる。
京の足の間で丸くなり、寄り掛かるかたちで寝ていたようだ。
その京はというと、寝ているのか目を閉じて動かない。
起こしていいものかと一瞬迷うが、決意して京の腕を揺らす。

「ん……おはよ」
「あの、なんで……?」

京は軽くあくびをして、眉間にシワを寄せながら首や肩を回す。

「今日体育キツかったからな。言うの忘れてたからって、抜き打ちであんな走らされちゃあな」

途中で目眩はしてくるし、顔色が青白くて具合が悪そうだと誰かが教師に報告したようで、貧血っぽいから休めと言われたのだ。
なので千草は後半は見学になった。

「もう!ソファーで力尽きてたからベッドまで運んでやろうと思ったのに、千草が押し倒すから。せっかくだからご厚意に甘えて、ね!?」
「ね、じゃないっ。放せ」

ぎゅうっと抱き締められて、またすっぽりと抱き締められる。
京の前では抵抗は意味をなさない。

「今日も、ここで食べよう」

急に覗かせる真剣な顔は卑怯だ。そんな時はいつも正しい事を言っている気がして、反論が出来なくなる。
京は千草の前髪に指を差し込んで、そっと横に流す。
その手が頬に移動して、片手はソファーから落ちない様に腰を支えている。

「寒くないか?まだ顔色が悪い気がするな。でも、元から白いからなぁ……。もし倒れて打ち所が悪かったりしたら大変なんだからな?少しでも変だと思ったら、ちゃんと言うんだぞ?」

自己管理できていない事を反省して素直に頷くと、京は子供相手にする様によしよしと頭を撫でた。

「さて、何がいい?千草の好きなもの作ってやる」
「じゃあ……オムライス。たまごがふわふわのやつ」
「よっしゃ。ケチャップでハート描いてやるよ」

千草がくすっと笑うと、京はそれ以上に幸せそうな顔をする。
それが突然怒気を放ち、鋭い眼差しが千草を通り過ぎて背後へ向けられるから、千草は咄嗟に京に抱きついた。

「大丈夫だよ、千草。多分また誠がドッキリを企んだだけだろうから」

恐る恐る振り返ると、低い位置にニヤニヤしている誠と小さくなっている里久の顔があった。
いつの間に入ってきていたのか。そしてそこで何をしているのか。

「千草を怯えさせるような事しかできないなら、制裁を加えて接近禁止にするしかないなぁ」
「いや、だって!晩飯誘いに来たら二人で幸せそうに寝てるから!起こせねぇじゃん!」
「なら速やかに出て行け。そして里久をお前の愚行に巻き込むな」

京は表面上は穏やかな声色と笑顔を作っているが、隠しきれない怒りが全身から溢れ出している。

「千草との大事なプライベートタイムを邪魔されたからってそんな怒ることないのに……」
「俺の事はどうでもいい。千草に被害が及ぶ事が何よりも憂慮すべき問題なんだよ。その次が千草の体調管理。だから俺は今から千草にオムライスを作る。よってお前は里久を解放してさっさと帰れ」

誠の袖をちょんと引いて、帰ろうと里久が囁く。
終始居心地が悪そうで、京の言う通り本当に誠に巻き込まれたんだろうなと察せられた千草は同情を覚えた。

「何がしたかったの……?」

責める意図はなく、千草は純粋な疑問を口にした。

「二人の距離感も近いし、関係性が深そうだねって言うから、俺も実際のところどこまでなのかな?って気になって……」
「ほら見ろ、発端はお前だな。里久を言い訳にすんな。帰れ」

本当はどんな関係なのか。
そこに関心を持つ者は少なくない。
千草には直接聞けないし、京には明るくおどけた調子でかわされてしまう。
最も身近に居る誠でさえ真相が見えていないのだから、それよりも外側に居る者は想像するしかない。
離れれば離れるほどに。
不確かな想像を膨らませ、増大した妄想をもとに身勝手な理屈を生み、感情を募らせる。
それが先日の様な暴走を生むのだ。

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あきゅろす。
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