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Lovely Prince

「ならいっぱい作ってやろう!」
「ほぅ。新海の露出が減るな」

ボソリと呟いた黒川にハッとすると、皆それぞれに悩み出す。

「くそぅ!見られなくなるけど飯は食える!」
「食えないけど見られる!」

一体何を考えているのか。
半眼で眺めてから黙って箸を進めた。


授業の合間、借りてきたばかりの小説を開いて活字の列をなぞる。
京は誠とベランダで話していたが、呼ばれて顔を上げる。

「悪い。眼鏡とって」
「眼鏡?」

机の上にあった眼鏡ケースから取り出して、ベランダから伸びる手に渡す。
休み時間にかけて何を見るのか。

「そんなに眼鏡京を見たいなら、見に行けばいいじゃない」

里久は嬉しそうに微笑んでいる。

「いや、別に見たいわけじゃ……大体、いつも部屋で見」
「じゃあ、そばに行きたいなら行けば?最近仲良くイチャイチャしてないんじゃない?」

一体何の心配をしているのか。

「大体、そんなのはいつも京発進で……」

そこまで言って、思い当たってしまった前科に動揺し、思わず言葉を止めてしまった。
まずい、と思ったのも束の間。

「公衆の面前で自ら抱きついたりキ」
「あ゙ぁー―っ!!」

墓穴を掘るとはこの事だ。
うっかり自分のした事を棚にあげて。

「千草、こっちおいで。って、何騒いでんの」

耳を塞いでその言葉を阻んでいたら、窓から救世主が現れた。

「いじめるからそっち行く」

京と里久は顔を見合せて軽く吹き出した。

「いじめられたって何?」
「何でもないっ」

言いながら窓を乗り越えてベランダへ。
すると、見てみ、と中庭の方を指して言う。
何を見せたいのかわからず顔を見ると、猫が居るんだと教えてくれた。

「何処に?」
「ベンチのそばの花壇の、ほらブロックの上」

と言われてもどの花壇か。
まだわからないで居ると後ろから覆い被さる様に抱き締められて、目線に合わせて指を指す。
それでやっと見つけられた。

「あぁ!本当だ」

顔や耳、足やしっぽが黒い種類の猫だけれど、顔は虎猫のような縞の柄になっている。
花壇の端でのんびり目を瞑り、日向ぼっこをしていた。

抱き締められたまま見る。
首輪はしていないみたいけれど、飼われているのか気になって言ってみる。

「飼いたくなった?」
「飼いたいとしても、寮じゃ飼えないだろう」

確かに犬派か猫派かと言えば猫派ではあるけれども。

「将来、二人の家で飼おうか」

言葉があまりに衝撃的過ぎて何度反芻してみても飲み込めない。

「プロポーズじゃん!?」
「しぃっ!」
「サラッとプロポーズ!」
「もう!誠!」

誠と里久が横で騒いでいても、おろおろするしか出来ない。
嫌だと思ってるとは思われたくないし、むしろすごく嬉しい。
なのに何も返せないのは、多分胸がいっぱいになってるからだ。

振り返って顔を見て、目が合いそうになって咄嗟に反らしてしまった。
ぽんぽんと頭を撫でるそれが、大丈夫だと言われたようで落ち着けた。
そして答えの代わりに頷いた。

「あー、高嶺さんだー。ねぇ、手ぇ振ってるよ?」

下を通りかかった高嶺さんとチカさんに気付いた里久が指して教えてくれた。

「うわぁ、本当に手振ってる」
「あっ、千草!振り返すんじゃない!」
「何で?」

後ろから腰辺りに回されていた手を、京はわざと下からも見える様に首に回して意地悪な笑みを浮かべる。

「おっ、悔しがってる悔しがってる」
「ったく、何してんだよ」

ぺしぺしと腕を叩いて放してもらおうとしても、高嶺さんに見せつけて優越感に浸っている。
しかもそれだけで足らずに頬に口づけて見せたものだから顔が熱くなる。

「何すんだよ!もーっ、バカ!」
「あ!拭くなよー!ちくしょっ、も一回してやる」
「なぁーんで、だ!なぁあっ!」

高嶺さんがチカさんに引っ張られて行ってしまった頃にはすっかり暴れ疲れて、京にだらりと寄り掛かった。

「疲れた…っ」

頭の上で溜息をついている京も疲れたのだろう。
再び腰に回された腕に何気無く触れて、その傷を意識する。

「これ。いつ治る?」

腕をまくると赤いかさぶたの線が見える。

「かさぶたが取れたらだな」
「傷、残っちゃったな」

うっすらだけれど、何本も。

「千草の顔にこれが残らなくてよかったよ。名誉の負傷、勲章だな!」

ふっと二人で吹き出す。
はじめは自分のせいだと思っていたそれも、今では自分の事を想って、守ってくれた証なんだと嬉しく思えるようになった。
そんな名誉の負傷を見る度、これからもそうやって思うんだろう。

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