[携帯モード] [URL送信]

Lovely Prince

学生寮は二人部屋だが、学年が上がると部屋の大きさが変わる。
高校生には私室が与えられ、ミニキッチンで自炊が可能になる。
大浴場とは別に各部屋には狭いがバスルームもあるので、しようと思えば様々な家事をする必要が出てくる。
寮生活によって規則や礼儀を学び、コミュニケーション能力や自立心を養う教育方針なので、学業以外でも自主性を育む環境が整っているのだ。
しかし千草は昔から引きこもりがちで、登下校以外では図書館に通うくらいしか外に出ない。
寮の視聴覚室や娯楽室を利用する事もなく、高校に進学してからは大浴場も使わなくなったのでますます人との接点が減った。

朝や昼は時間が限られるので、寮や各学校の食堂は混雑するとわかっていても人が集まる。
それは千草も同じで、接点のない者にとってはその姿を目撃できる貴重な機会のひとつだ。
ほぼ確実に京と同席するので、その近辺は二人目当ての生徒達で静かなイス取りゲームが繰り広げられる。
そこまでの行動に出ずとも、遠くから観察するだけの者も少なくない。

日替わりメニューの和定食を口に運んでいる京は、会話の合間に隣で洋定食をつついている千草をさりげなくうかがう。
千草の箸が止まる度に横から口を出す様子が、何だか保護者の様だな……と里久は二人を眺めながら思う。
あれがおいしいよ。とか、これはどう?とか。
千草が食べると京は微笑み、自分の食事に戻る。
誠は気にしていないので、恐らくこれが日常なのだろう。
里久と視線がぶつかった瞬間、何か思いついたらしい京はニッと笑みを作ってみせた。

「もう貧血は平気?食堂のご飯がのどを通らない時は、俺がまたいつでも千草の好きなものを作ってあげるからね?」

恋人に向けられる様な甘い声を聞いてるだけでも照れ臭いのに、それを向けられる千草は鋭い眼差しで一瞥するだけだ。
そんな反応しか返って来なくても京は少しも不満な様子を見せず、むしろ嬉しそうに横顔を眺める。

「本が好きなのはいいけど、それじゃお腹は膨れないんだから。まぁいっかって食べるのを後回しにしないこと。ねぇ、千草。わかってる?ちゃんと約束して」
「わかってる」

口うるさい親に苛立つ子供の様な返事にさえ、京はだらしなく笑み崩れる。

「千草をベッドに運ぶのが俺の役目だからって、甘えてそうほいほい倒れられても困るよ。うっかり誰かにお持ち帰りされちゃったらどうするの?その後どうなるか、想像してみたことある?」

冗談だろうと思っても、反射的に頬を染めてしまった里久は咄嗟にうつむいて顔を隠した。
さすがに今の発言は無視できなかったらしく、周りで聞き耳を立てていた者の中にも動揺が走る。

「おい、誤解を招く言い方をするな。里久の反応を面白がって遊んでるだろ」
「あっは!俺は間違ったことは言ってない。ソファーで寝ちゃった千草を抱っこしてベッドに運んであげたことが何回ある?すぐ体調崩すんだから、自分でももうちょっと気をつけてくれないと」
「今は俺がだらしないって話じゃなくて、お前が里久をからかって遊んでる話をしてる」

千草が転校生を名前で呼び、友人として接しているという情報がこれで知れ渡るんだろうな…と、誠は丼を頬張りながら予想する。
そしてそれは間も無く現実となる。


放課後に図書館に行くと言った千草の荷物を、京は何も言わず当たり前のように預かった。
唯一と言ってもいい楽しみの時間を邪魔しない為にそこまではくっついていかないなんて余裕ぶっておきながら、実はちゃっかり図書委員の先輩に根回ししているのは秘密だ。

「何の為に……?」

率直に疑問で首を傾げる里久に、決まってるだろと誠が笑う。

「見てないところで千草にちょっかい出すヤツがいないか監視してんだよ」
「おい、言い方が悪いな。俺はただ千草が嫌がってたら助けてほしいって頼んでるだけだ」

何となく千草の反応から付き合ってはいなさそうだなと感じていた里久だったが、京の一方的な執着の強さを察した。

[*前へ][次へ#]

5/47ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!