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Lovely Prince

目を引く容姿。
勉強も運動も人並み以上にさらりと出来てしまう。
なのに飾らない人柄とその明るい笑顔に惹かれて、自然と好意が集まる。
それは京の才能だと千草は思う。
そこに存在するだけで、パッと辺りが明るくなる。
人々の輪の中に居るのはいつも彼だ。
彼と話したくて、彼の関心を得たくて。
そんな彼のお陰でたまたま横に居るだけに過ぎない千草は、時に信奉者から睨まれる。

サービス精神か、ただ楽しいのが好きなのか知らないが、人目があるところに限って京はふざけだす。
後ろから抱きつかれると、体格差のせいで千草は自力では逃げられなくなる。
苛立ちが顔に出ていても、周囲が仲睦まじい恋人同士を見るかの様な反応をするのがわからない。
好意にしろ悪意にしろ、多くの関心にさらされるのは負担でしかない。

「……京。もういいから」

体に回された腕を揺らして、離してくれと訴える。
が、ニコニコ笑うばかりで聞いてくれそうな気配はない。
千草が不機嫌な顔と困り顔を繰り返すのを見て嬉しそうにしているだけだ。
こういう時に、いつも思う。

「意地が悪い……」

ボヤく人の顔をまじまじと覗き込んで、いじめっ子が目を輝かせる。

「ねぇ、千草。それ計算でやってるの?そんなわけないよね!?天然か!天然でこんな可愛いのか!はぁーっ、もう!いじける姿も超絶キュート!」
「お前、それ……。小学生か。嫌がってる顔見て喜ぶとか」

誠が呆れ顔でツッコむ横で、里久は恥ずかしそうに視線をそらす。

「こら、千草。誰かに付き纏われて迷惑なら、僕がいつでも手を貸してあげるって言ってるじゃないか」

華やかな空気を纏って現れた甘いマスクの彼は、優しげな口調で皮肉を放つ。
明るい茶髪に、白い肌。薄い茶色の虹彩……と色素が薄い。
彼はきらきらしい見目のお陰で生徒会長になれたと言って自身をお飾りだと卑下するが、そうでない事は明らかだった。

「高嶺さんはお忙しいでしょうから、俺が“変なの”に付き纏われないように見張っておきますよ。俺達は昔から寮でも教室でもずーっと一緒なので」

先輩相手に負けじと笑顔で当て擦る京に千草はハラハラする。

「クールで動じないように見えて、実はとっても繊細だからね、千草は。不満があっても気を使って遠慮しちゃうのかな?悪かったね、千草。僕がもっと寄り添ってあげれば……」

胸に手を当て、芝居がかった調子で悲しげにしてみせる。
それは言葉通り千草を心配するよりも、京を挑発する意味合いの方が大きいのだと千草は解釈している。

「七瀬、早く来い。後輩で遊んでる場合じゃない」

高嶺はいたずらが見つかったみたいにクスッと笑って、副会長とあっさり戻っていった。

「ああいう自分に自信があるタイプはグイグイ来るから面倒なんだ。しかもあの人の場合、口だけじゃなくて実際中身が伴ってるからタチが悪い」

顔を合わせる度に千草をネタに皮肉の応酬が行われる。
乱暴な口論にこそならないが、毎度の様に険悪な空気にはなる。
高嶺は珍しく反抗的な後輩を面白がっているだけなのだろうが、京は彼を警戒して敵視している。
けれど内心では彼を認めているのだ。
誰かを心から嫌っているわけではないという事実が、思ったより千草を安堵させた。
くすっと漏らしたその小さな笑いを京は逃さない。

「ん?」

ニヤニヤと笑みを浮かべながら、顔を覗き込んで千草が笑った意味を探る。
聞かれたとしても千草は答えようがない。
けれど、都合のいい解釈を否定しておく事はできる。

「別に。嫉妬とか独占欲が嬉しいなんて思ったわけじゃないってのは言っておく。守ってくれたなんて思ってない。むしろお前が俺にムダに絡んでくるから高嶺さんはそれをダシにちょっかい出すんだ。反省しろ。迷惑かけて悪いと思え」

照れ隠しと誤解する隙を与えない無機質な反応に落胆するのは京ではなく、まんまとお惚気と思って一喜一憂した周囲の方だ。
どんなにつれない態度をとられても、京本人は容易く折れたりしない。
それはもうずっと変わらない光景だった。

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あきゅろす。
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