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Lovely Prince

「手前の、親子のそばに咲いてる白い花は死を象徴してるけど、正義という意味もある。そして同じ花が奥にも咲いてる。男が見てる人影の方に。男が警戒してるのは正義の裁き。その先にある死だ。この三人の背後にあの木があるという事は、男も死を免れない」

男の罪が裁かれると知って周囲にはホッとした空気が漂うが、京はその結果に満足はできない。

「俺はどうしても、死刑ぐらいじゃ生ぬるいと思う」

千草の視線を受け、京は「わかってる」と苦笑した。

「思いっきり私情が入ってるよ」

千草の“事件”を投影し、犯人への怒りや憎悪が生じるのだ。
千草は再び絵画に目を向け、やわらかな声色で続けた。

「この絵の題名は『悲惨』だ。悲惨な“事件”という意味だけど、俺は犯人の男がやがて悲惨な死を迎えるという事だろうとも思う。死の瞬間だけじゃない。例え捕まらなくても、死の影に怯え続けながら生きるのは悲惨だ。そしてその果てにある死は解放の喜びではなく、悲惨なものであればいいと思う。……最後のは、願望」

千草はふっとほのかに笑った。
京はその顔を見て、瞬間的に決意した。
すっと息を吸い込み、視線を上げる。

「実は今、千草がストーカーで悩んでるんだ」

その場で聞いていた者は息を呑み、またはえっ…と戸惑いの声を漏らした。
突然の事に千草も驚き、思わず京の手を握る。その様子が真実味を持たせ、一同に更なる動揺をもたらした。

「今までなら軽く無視して済んでたんだけど、内容がだんだん厄介な感じになってきてる。千草もここんところ何回か襲われかけてすごくナーバスになってるし」

現場が寮だった事もあり、パニックになった時に居合わせた者は少なくない。それが寮での乱暴未遂事件の情報と繋がり、学生の間で一気に噂が広まっていた。
なので皆理解が早く、無理もない……と同情的な空気になった。

「また襲われたら…って怯えてるんだ。だから、千草を守る為に協力してほしい。千草にはもう悲惨な経験をさせたくない」

もちろん。と、何処からともなく上がった声は大きくなり、不安だった千草を勇気づけた。



千草の話題なら、どんな些細な情報でも喜んで噂されるのがこの高等部だ。千草のファンが多い中等部もその傾向は強い。
ストーカーという衝撃的な新情報は、千草が怯え悩まされている重大な“事件”として中高の学生の間で拡散していった。
浴場でもその話題が飛び交っているが、そこに彼らが来ない事は常識になっている。
そもそも。各部屋に浴室は存在するが、大概の学生は掃除が面倒なので混雑を我慢しても大浴場を使う。
部屋で入るなら、風邪など他の学生との接触を避けねばならない場合。でなければ、運動後に汗を流したい場合など、時間外にどうしても必要な時にシャワーを使う程度だ。
しかし、いつ頃からそうなったのか、京と千草の二人は毎日自室の浴室を使っている。
理由ははっきりしている。京の強い独占欲だ。
千草の裸身を人目に触れさせたくなくて、京がそうするように頼んだのだ。
そういう経緯なので、風呂の準備や掃除は京がずっと担当している。だから千草もこれまで文句なくそうしている。
その事に嫉妬や不満を抱く者がなかったわけではない。だが、京が認められるに従ってそれらは減っていった。
そして今ではそれがありがたく思われるまでになっている。千草と一緒になったら、どうしても意識せずにいられないからだ。
そういった邪心から千草を守り続けてきたのが京だ。けれど、今回は秩序を乱す悪質なルール違反。迷惑行為とあって、大半が協力的になっている。
そんな流れに対する反発か、嘲笑か。高等部の校内の掲示板にとある張り紙が現れた。

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あきゅろす。
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