異変
「…」
ん?…何?
「…ハ」
誰…?
「シルハ」
わっ!冷たい…誰だよ何すんだ!
「…起きねえな」
起きない…俺…寝てるの…?
わ!冷た……これ…
「何!!!?」
ゴチンっ――
シルハは閉じていた瞳を開けると同時に体を起こすと、額に鈍い痛みが走る。
「…〜っ!!!」
「痛たぁ…って…」
額に当たった物の正体を知り、シルハは寝惚けた頭が一気に冴える。
「てんめぇ…シルハ…」
「タ…ピスたいちょ…」
目の前に居たのは額を手で押さえて、半涙目になってるタピスだった。
うるんだ瞳で自分をかなり睨んでいたため、シルハは顔が引きつるのを感じた。
「中々起きねえから心配してやれば…」
「へ?」
シルハも今だ額に走る痛みを手で摩りながら自分の周りの様子を確認する。
そこは訓練所だったが、なぜ自分がこんな所で寝ていたのか全く覚えていない。
「お前…止めろっつったのに修行止めねーで魔力使いきってぶっ倒れたんだよ」
「へぉ?」
タピスに言われ、空を見るとすっかり日も暮れ、ガラス張りの天井から覗き込むのは太陽ではなく月へと姿を変えていた。
「冷た!!!」
急に太股辺りに冷たさを感じ、シルハは目を向ける。するとズボンの上に落ちていた濡れタオルが目に入った。
さっき感じた冷たさはこれだったんだ…
シルハは少し考えがまとまるとなんとなく思い出してきた。
「そういえば…」
確に無理に魔力を使って…意識が切れたような…
つまり、ぶっ倒れたシルハを心配してタピスが濡れたタオルで少しでも楽になる様にと顔を拭いていてくれていたのだ。
目を覚ましたシルハはそのタピスに頭突きを食らわせたわけである。
「すいませんでした」
シルハは目にも止まらぬ早さで前に伸ばしていた足を正座にして土下座をし、そのあまりの早さにタピスは逆にビビった。
「いや…俺も強制させた面があるから……怖えから止めろ!!!」
土下座したシルハが背負う負の念にタピスはビビりながら制止させる。
シルハは顔を上げて「すいません」と再度謝った。
「あれ…隊長はずっとここで…?」
「あぁ。お前を隊舎に連れてこうかとも思ったが、他の奴に特訓の話バレると面倒だからな」
タピスは地面に座っていたために付いたズボンの砂を立ち上がってパンパンと叩きながら答えた。
「えぇ!!!?すいませんでした!!!」
様は忙しい隊長が自分の為に時間を削って側に居てくれた事になる。
シルハは残像が見える早さで土下座をした。
「もう…いいから…」
はぁっと溜め息を付いてタピスはシルハを見つめた。
「とりあえずもう戻れ、明日から任務だからな。早く寝ろ」
「はい。ありがとうございました」
シルハは立ち上がってタピスに頭を下げる。
「じゃぁ…お先失礼します」
「あぁ。おやすみ」
「おやすみなさい」
シルハは後ろを向いて隊舎に向かって駆け出した。
その後ろでタピスが呼吸を荒くして苦しそうに身を屈めたのも知らず。

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