小さな存在
♪♪〜♪
小さな機械音が服に埋もれて鈍くなり響く。
男は服のポケットから小さな機械を取り出す。
「〈輝く星屑〉」
男は機械に向かって言葉を発すると、機械の画面が起動する。
「クス、鳩が遅いんじゃないのかな?」
男は文面を読み、薄く笑うと画面を消す。
「パルス隊長。鳩にはなんと?」
横からひょっこり出てきた男は、消えて黒くなった画面を見つめながら尋ねた。
「クス、ドリミングの襲撃に気を付けろだって。遅いよね」
通信機器をしまいながら、12番隊部隊長 パルス・ウルマーダは男の問掛けに笑顔で答えた。
「ところでノル……被害人数は?」
その笑顔を崩さぬまま、パルスは横から除きこんできた12番隊副部隊長であるノル・トルヘルビーに質問をする。
「う〜ん…死亡数は全体の1/4…重傷人含めると半分未満ってとこっすかね…」
ノルは顔を歪めながらその問いに答える。見ると、ノルの服はかなり血で汚れて、服の色がよく分からなくなっていた。
回りに視点を写すと、そこは死体の山が詰まれ、血や臓器が辺りに飛び散り地面を赤黒く染めていた。
「そっか…いきなりの襲撃じゃいくら何でも対処しきれないよね。」
相変わらず笑顔のパルスは辺りが血に赤く染まるなか、まったく血に汚れていない白い肌と服、薄い水色の髪は他の色の侵入を許さず美しく輝いていた。
「取り合えず生存者の確認を。怪我人は応急処置をしてあげてね。僕は鳩を飛ばし返してみるよ」
「はい!わかりました」
敬礼をすると、ノルはここよりも酷い状態の場所へ、足場を気にせず誰かの臓器と血を踏み潰しながら生存者を集めるために嵐が去った戦場へと入っていった。
「ドリミングの襲撃を受けるなんて僕らもついてないな…」
パルスは小さな笑みを消さずにしまった通信機器を取り出し、また「〈輝く星屑〉」と言うと機器に電源が入り、真っ暗だった画面に色が入る。
短いで文をさっさと打ってからまた服のポケットにしまいこむと、真っ赤に染まった戦場を見つめる。
背景は美しく晴れた空。
青と水色の美しいグラデーションにプカプカと雲が気持よさそうに空を泳いでいる。
しかし地上に目を落とすと対極の世界が広がる。
美しく生い茂った芝生には臓器がこびりつき、土には血が染み込んでいる。地面の上には死体が転がり、まさに地獄画図だった。
「気持のいい光景じゃないね」
パルスは小さく呟くと、美しい空を見上げる。
「クス…人って小さいね」
無限に続く空はあんなにも美しく自由なのに、限りある地上はなんと醜く狭いのだろうか。
自由で美しい世界は規模が小さくなればなるほど手に入れにくいのだろうか?
だとしたら
争い合う人間はもしかしたら何よりも一番小さな存在かもしれない。
同種族に脅えるのは人間だけだ。
「空に比べると僕らって馬鹿みたいだね」
パルスはそんなことを考えながら一人空を見上げ続けた。

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