長い長い廊下をツカツカとヒールの音を響かせて歩く女性がいた。
黒い髪は鎖骨辺りでヒラヒラ揺れ、バシッと決めたスーツを着ている。顔に掛けた眼鏡からは鋭い眼孔が前方を睨みつけていた。
この女性、総副部隊長 イリーナ・ルルマリーは中央棟にあるとある部屋を目指す。
FANTASMAの中央棟 13階にある部屋に入った。
窓のない機械に囲まれた部屋。イリーナは真っ直ぐ巨大なモニターの前の機械のスイッチを押す。すると、ブゥンっと音を立てて、機械が起動し、モニターに世界地図が映し出された。
世界地図には12の赤い点。3つは1つの場所に集合し、あと9つは点々と煌めいていた。
点の上には1〜12までの数字が書かれており、3つ集合した点の上には、「2」「5」「7」と記載されている。
これは各隊の隊長の位置が確認できる物だった。各隊長に配布されている通信機で場所が確認できるのだ。
イリーナはその点の上の隊の番号を確認すると、キーボードに簡単な文面を打っていく。

 ドリミング遂に始動。
 各隊共に厳重注意をする
 こと。

さっさと簡潔な文を打つと、イリーナは「1」「3」「4」「6」「8」「9」「10」「11」「12」のボタンを押してから、真っ赤な特別目立つボタンを押す。
これは本部にいない隊に緊急連絡をする為の通信手段だ。原理はメールと同じだが、閲覧には各隊の隊長の声紋が必要であり、一度ファイルを開いて中身を確認すると履歴から何まで削除され、敵に情報が漏れないようになっているのだ。
まだ文明が発達してない時には鳩を使って伝達をしていた名残が残り、この電報を「鳩」と呼んでいる。
イリーナは「鳩」を送ると、機械の電源を落としケイルの部屋へと急いだ。
エレベーターで15階まで上がり、冷静な手付きでドアをノックする。
コンコン――
「どうぞ」
木製のドアの乾いた音。少ししてケイルの声が聞こえると、イリーナはドアノブを回してドアを開ける。
「失礼します」
静かにドアを閉めると、イリーナの視界にはケイルだけではなく、別の人物も捕えた。
黒髪のロングヘアー、水色の美しい瞳。美人だが、気の強そうなオーラが滲出ている女性、5番隊部隊長 ルチル・ハートレッドだ。
どうやら任命式でゲルゼールに上げる人間を選んでいた様で、ケイルの机には5番隊の隊員名簿が広がっている。
イリーナはさして気に止める様子もなくケイルの方へ数歩進み出てから小さく一礼をした。
「只今現在本部に滞在してない9隊に「鳩」を出しました」
「相変わらず仕事が早いな。ありがとう」
ケイルは小さく微笑んでお礼を言う。
「では、失礼します」
用件を済ますと、イリーナはくるりと後ろに身を翻し、スタスタと静かに部屋を出ていった。
「…完璧眼鏡ね…面白みもなんもないわ」
ルチルは無駄が無さすぎるイリーナの行動に悪態をついた。
イリーナは超完璧主義のFANTASMAの風紀委員的な存在だ。あまりに規律に厳しすぎて、隊長達からは「完璧眼鏡」と呼ばれている。
「イリーナは忙しいのさ。許してやってくれ」
ケイルは苦笑いしながらルチルに声を掛ける。
「分かってるわ」
ルチルは小さく頷くと、「さてと」と言ってまたケイルとゲルゼール補充員の話を始めた。

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あきゅろす。
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