コントロール
「と、言うわけでそろそろ戦いが激化するだろう。各自、任務へは今以上に気を引き締めて取り組んでもらいたい」
アイル率いるドリミングが"アドナ"へ向かったころ、ヴィクナは隊員達に事の説明を終えたところだった。
「激化…」
シルハはヴィクナの言葉を繰り返した。今の自分の未完成な魔法で、激化する戦いに耐えられるだろうか?
シルハはふと3ヶ月間言われた通りに填め続けたマジックバングルを見つめる。3ヶ月間も魔力を押さえ続けられると体も随分成れてしまったが、逆に今度は外すのが怖くなっていた。
半分に押さえられた魔力のコントロールでやっとなのに、果たして倍になるとどうなってしまうのだろう。
シルハは3ヶ月前の様子を思い出す。
魔力のコントロールが上手くいかずに体内で爆発した初任務の時を。
あの時は精神世界で実際のダメージにはならなかったが、あの時感じた恐怖は今だ鮮明に蘇ってくる。
話が終わり、それぞれ各自の部屋に戻っていく中、シルハは立ち上がらずにソファーに座り込んでいた。
「シルハ、どうした?帰らないのか?」
「ボーッとしてどうしたの?」
ルイとレイチェルは少し様子が変なシルハに心配そうに声を掛けた。
「うん、大丈夫。俺、ちょっと訓練所で修行してくる!!」
魔力コントロールの事を考えるといても立ってもいられなくなり、シルハは勢い良くソファーから立ち上がるとダッシュで第1訓練所へ向かった。
息を切らしながら訓練所へ到着すると、滝壺の所へ行きドカッと座り込んだ。
「イメージ…」
シルハはボソリと呟くと魔力の流れを瞬時にイメージし、魔力を流す。
随分この行為には慣れ、瞬間的に出来るようにはなっていた。
水は3ヶ月前とは打って変わって音を立てずに静かにシルハのかざす掌へと集中していく。あっと言う間にイメージ通りの水球が出来上がった。
「よっし!」
次は丸から螺旋型へ魔力の流れを変えていく。上手く行けば水は魔力の流れと同じように動いていくのだ。
水はシルハの思い描く通りに螺旋型に形を変える。シルハは大分魔力を使いこなす事が出来ていた。
「なんとかなるかな…」
だがまだ不安であることは変わらない。シルハは未だに属性魔法が苦手なのだ。
「よっし、練習してみよう」
シルハは手を掲げて呪文の念唱をしようと空気を吸い込んだ。
「何勝手に別のステップに行ってんだ?」
急に懐かしい声が後ろから聞こえてきて、シルハは勢い良く振り返った。
「タ…タピス隊長!!」
「久しぶりだな、シルハ」
タピスはツカツカとシルハに向かって歩いてきた。
「お久しぶりです!あの、今日お戻りになったんですか?」
「あぁ、さっきな。お前のところ行ったらここにいるって言うから来たんだ」
タピスはシルハの位置まで来ると、螺旋状になった水を確認する。
「どうやら…出来たみたいだな」
「これで大丈夫ですか…?」
シルハは心配そうに水の形を確認するタピスに尋ねた。
「…あぁ、大丈夫だろ。合格だ」
タピスの言葉にシルハはほっと一息ついた。
少しだが、胸に詰まった不安感が薄れる。
「じゃ、次のステップに行くか」
タピスはシルハの横にしゃがみこんで水に手をかざして水球を作った。
タピスはそのまま立ち上がると、掌に反発する磁石の様に微妙な距離を取る水の球を掌と共に上に向ける。
そのまま手を前にかざすと水球に急に変化が現れた。
静かに収まっていた水球はいきなりボコリと音を立てると、無数の水の粒に分裂し、弾丸より早く前に飛んでいった。
もろにその攻撃を食らった木々が数本、幹から折れ地面へと吸い込まれていく。
「ステップ2、魔力を飛ばす。やってみろ」
唖然とするシルハをよそにタピスは涼しい顔で行動を促した。

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